拍子抜ひょうしぬ)” の例文
旧字:拍子拔
お友達のなかでいちばん背の高いあなたが、子供のようにねてゆくところを、ぼくは、拍子抜ひょうしぬけしたように、ぽかんと眺めていたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おどろいたのはモンクスだった。敵の上半身をねらってただ一げきと思いきや、相手は寝てしまったんだ。拍子抜ひょうしぬけがして、ぼんやりしてしまった。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
やや拍子抜ひょうしぬけのていである。彼はさい前からの臆病過ぎた用心が恥しくなって、苦笑しながらピストルをポケットに入れ、文字盤の裏へ近づいた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから何となく拍子抜ひょうしぬけのした、しかもどこかに物足らなそうな不安の影を宿している津田の顔を見て、ふと気がついたような調子で云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坊主はこちらへ背を見せたまま、「誰じゃい?」とただ声をかけた。伝吉はちょいと拍子抜ひょうしぬけを感じた。第一にこう云う坊主の態度はあだを持つ人とも思われなかった。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お鍋に聞けば、一旦いったん帰ってまた入湯に往ったという。文三すこ拍子抜ひょうしぬけがした。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
小揺こゆるぎもしないのにいささか拍子抜ひょうしぬけがしたのであろう。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
成政は、拍子抜ひょうしぬけした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼠地ねずみじのネルを重ねた銘仙めいせん褞袍どてらうしろから着せるつもりで、両手でえりの所を持ち上げたお延は、拍子抜ひょうしぬけのした苦笑と共に、またそれを袖畳そでだたみにしてとこすその方に置いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて食事も済む。二階へ立戻ッて文三が再び取旁付に懸ろうとして見たが、何となく拍子抜ひょうしぬけがして以前のような気力が出ない。ソッと小声で「大丈夫」と言ッて見たがどうも気が引立ひったたぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)