戸納とだな)” の例文
与平が撞木杖を持ってゆき、自分の戸納とだなの中へしまい込むのを眺めながら、栄二は息を静かに長く吸い、それを用心ぶかく吐きだした。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこは六じょうを二つつなげたような、縦に長い部屋で、向うに腰高窓があり、左右は三段の戸納とだなになっていた。
隼人は静かに立ちあがって戸納とだなをあけ、手文庫の中から一通の封書を取り出すと、戻って来て帯刀に渡した。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そんなときにはやがて眼ちがいということがわかるし、そうすると眼ちがいをしたことを隠すために、その「とんでもない物」は戸納とだなの中へ放りこんでしまう。
末っ子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「歌の中にはこれと思い当るものがなかったので、そのまま戸納とだなの中へ入れておいた」と五郎太は続けた
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夕餉ゆうげには卵を買って、しらげた米で、心をこめて雑炊を拵えた。それから戸納とだなをあけて大きい包を取出した。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分の部屋に帰って、記録の包みを戸納とだなへしまってから、登は森半太夫の部屋を訪ねた。半太夫は机のそばに行燈をひきよせて、日記を書いているところだった。
その部屋には六尺の戸納とだながあった。彼はそっとその唐紙をあけてみた、上下の段にきっちり蒲団が重ねてある。客用のではない、家士たちの使う予備のものらしい。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道具らしい物は小さな古い茶箪笥ちゃだんすと箱膳、火鉢と炭取だけで、ほかの物は戸納とだなへでもしまってあるのか、眼につく物はなにもないし、掃除もよくゆきとどいていた。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ながいあいだの習慣だから母親の椙女すぎじょは、彼がそう云おうと黙っていようと、茶箪笥だんすのほうへ振返って、「上の戸納とだなをあけてごらんなさい、鉢の中にあめがあった筈ですよ」
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
力まかせに突きとばされて、与平が土間へ転げ落ちたのを見たとき、栄二は眼のくらむような怒りにおそわれ、うしろの戸納とだなに立てかけてある撞木杖に手を伸ばそうとした。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
起きて夜具をたたみ、戸納とだなへそれをしまうにも、殆んど物音をさせない。これらはすべて、大切な重病人が側に眠ってでもいるように、注意ぶかくひそやかにおこなわれた。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこは薬戸納とだながあけてあるし、抽出ひきだしはみんな半ばまで引き出され、床板の上には袋入りの薬がいちめんに積んであるため、娘の坐る円座えんざをどこへ置くかに迷うくらいであった。
ふさはその声が聞えなかったらしく、黙って戸納とだなのところへゆき、その前で立停った。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
部屋にはめいめいの仕切り戸納とだながあり、自分の物は各自で持つことを許されていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おせんは消したきおとしで火を作ろうかと思ったが、それだけあれば朝の煮炊きが出来るので、そのままそっと部屋の中へはいってゆき戸納とだなからあの風呂敷包をそこへ取り出した。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは六帖ほどの広さで、片方は造り付けの戸納とだな、片方は壁で、壁際に渋紙で包んだ物が積んであり、その包みから発するらしい一種の、ひなた臭い匂いが、部屋いっぱいにこもっていた。
片方はひび割れた壁、片方は重たげな板戸の戸納とだなになっていた。