あわただ)” の例文
立山の絶頂では、室堂むろどうをすぐ脚の下に眺めながら、なぜあのように淋しい頼りない思いに堪え兼ねてあわただしくかけ下りたのか。
秩父のおもいで (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
こんな風に書いていると長い様だが、舞台が明るくなってから、怪物の姿が木戸口の外に消えるまで、僅々きんきん二三十秒のあわただしい出来事であった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
拡りかたは如何にもあわただしかったが、程なくその奔走の姿も新しい看察を伴ってみられるようになり、現在ではあれこれ表面的な題材に拘泥せず
良吉の歸つてゐる間入學試驗の準備を怠つてゐたので、最早小説など讀み耽つてはゐられなかつた。上京までの日數を數へると心があわただしかつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
わたしはまた湯に入つて後頭部を湯槽の縁に載せ、いまあけたガラス戸の方に向つて、出て行く湯氣、入つて來る霧のあわただしい姿を見るともなく仰いでゐた。
湯槽の朝 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
こう云って男のざらざらした手が、私を掴んで、あわただしく俥の上へ乗せた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
明智は少女の意識が恢復するのを待って、あわただしい舟の上の訊問を始めた。「君が令嬢を殺したのは、英国にいる千秋さんの為だね。そうだろう」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
着いた時はもう日暮で、引き返すとすると非常にあわただしい気持でその日の終列車に乗らねばならなかつた。
渓をおもふ (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
後を振り返って部屋の隅の寝台の方を見たり、そんな事を何遍か繰返していたが、その時、母屋の方から廊下伝いにあわただしい人の足音が聞えて来た。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十七八年の間に二三度帰国はして居るが、いつもあわただしい時間であったり、その花の咲く季節でなかったり、心ゆくまでそれに向うということを一度もようしていない。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
自動車が科学陳列館へ着くと、宗像博士と中村捜査係長とは、陳列館の主任に事情を話し、その案内で、三階全体を占める衛生展覧会場へ、あわただしく昇って行った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その笑い顔のまま、彼女は、丁度網にかかった鼠の様に、あわただしく、みじめに、美術館内を駈け廻った。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そう思うと、彼はあわただしく腰の辺を探って見ました。どうも無いようです。彼は益々慌てて、身体中を調べました。すると、どうしてこんなことを忘れていたのでしょう。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水面と金網の上部とがスレスレになると、鼠は薄赤いくちさきを、亀甲きっこう型の網の間から、出来る丈け上方に突き出して、悲しい呼吸を続けた、悲痛なあわただしい鳴声を発しながら。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わしは夢中になって、あわただしくたもとに手をやった。いつもそこにマッチが入っているからだ。ところが、アア、何ということだ。神様、神様。わしはどうしてこうまで不幸なのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あわただしく一つの窓にかけ寄って、外の夕闇を覗いたので、やっと事の仔細が分った。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
博士は何を思ったのか、中村警部の腕を取らんばかりにして、あわただしく促すのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大宅も相手のただならぬ様子に引き入れられて、あわただしく聞き返した。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黒川先生が、あわただしく聞返された。先生のお声はひどく震えていた。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
博士は云い捨てて、あわただしく迷路の彼方へ遠ざかって行った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雷蔵のあわただしい声が聞えて来る。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
治良右衛門があわただしく聞き返す。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、さもあわただしく云うのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あわただしく囁いた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)