悲哭ひこく)” の例文
それは後宮の火宅を出て、またつるぎの門へした三界に家なきものの悲哭ひこくとも歓喜ともつかない異様なまでの罪深いあえぎであった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悲哭ひこくする廷臣をべつとすれば、わずかに、御生涯の艱苦かんくをともにして来た准后じゅんごう阿野廉子あのやすこと、第七皇子の義良よしなが十三歳のおふたりだけであったのだ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゅくしゅくと、男泣きの悲哭ひこくをもらす者さえある。——終ると、宋江は座について言った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間は眼前のものと戦い、なお頽勢たいせいをもりかえそうとくらんでいるが、天に吠える群犬の声にはいんいんとこもる悲哭ひこくがあって、すでに未然の何かを知っていたかと思われるものがあった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)