恋中こいなか)” の例文
親というものは馬鹿なもので、流石の伯父さんも、富美子さんと服部君とがとうから恋中こいなかだったことに気づかなかったのだよ。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一方には元の恋中こいなかの女が独身でいて、しかもどうやら自分の様子に注意しているらしく思われる境涯、年若な省作にはあまりに複雑すぎた位置である。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
稽古本けいこぼんを広げたきりの小机を中にして此方こなたには三十前後の商人らしい男が中音ちゅうおんで、「そりや何をいはしやんす、今さら兄よいもうとといふにいはれぬ恋中こいなかは……。」と「小稲半兵衛こいなはんべえ」の道行みちゆきを語る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
爾来じらいことにおとよに同情を寄せたお千代は、実は相談などいうことは第二で、あまり農事の忙しくならないうちに、玉の緒かけての恋中こいなかに、長閑のどかな一夜の睦言むつごとを遂げさせたい親切にほかならぬ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)