従順おとな)” の例文
旧字:從順
縁側の欄干らんかん手拭てぬぐいを、こうひろげて掛けるね。それから、君のうしろにそっと立って、君の眺めているその同じものを従順おとなしく眺めている。
雌に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
「不足なう教育も受けてゐながら、人並にしてゐれば幸福に暮せるものをどうして従順おとなしくしてゐる事が出来ないのだらう」
日記より (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
夫れァ、喧嘩も仕ました、常平生つねへいぜい、余り従順おとなしく無い奴で、チットは厭気のささないことも無かったんです。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
私の父は従順おとなしい、正直者でした。それが、それが……どうして、こんなあさましい気狂いになったか、諸君、諸君にも責任があるのだ。それは十姉妹の悪流行だ、この大旱りだ。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
お父さんはどうしたでしょう……妾浜まで行って見て来るから従順おとなしうしておいでよ、よ、じきにね、晩方ばんがたまでには帰って来るから。……さあさあ、泣かんで、お留守居していておくれよ。
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
或真夜中、お松は子供達の手を曳いて、宛どもなく街を彷徨さまよった。気力の脱け切った子猫のように、子供達は眼だけ光らせて従順おとなしく歩いていた。太い丈夫そうな松の木が逞しい腕を延ばしていた。
反逆 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)