いら)” の例文
彼はふといらってみる気になって、人差指で姪の臍の頭をソッと押してみた。指さきは何の支えも感じずに直ぐ一節ひとふしほど臍の中に隠された。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
賢夫人は、いいたいことがあって来たふうで、棘のある言葉で、チクチクといらいだした。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
先生は炉の鉄火箸を執り上げ、薪の焔をその尖で二三度、いらい返していましたが
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
蕁草いらくさ刺毛さしげいらわれるような遣瀬なさで、痒味つら味は何にたとえようもないほどであった。しばらくの間は袴の上から押抓おしつねってなだめていられたが、仲々もって左様なちょくなことではおさまらない。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)