庖丁ぼうちょう)” の例文
サッとカーテンが開くと、料理庖丁ぼうちょうのキラキラしたのをさげて、料理人のひとが、一人の若い男の背中を突いてはいって来た。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やがて皮削かわそ庖丁ぼうちょうや縫針で、胼胝たこの出来た手で、鼓や太鼓のばちをもち、踊りも、梅にも春や藤娘、お座敷を間に合わせるくらいに仕込まれた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
喚く声に、振向いて見ると亭主が、右手に刺身庖丁ぼうちょうを持って突っ立っていた。——正吉はにやりと笑いながら、土間に落ちていた花簪はなかんざしをひょいと拾って
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかも、死骸の右手にしかと握ったのは、お勝手に置いてあった、おろし立てのドキドキする出刃庖丁ぼうちょう
次に一方の男がフロックコートを開き、チョッキのまわりに締めた帯にかかっているさやから、長くて薄い両刃の肉切庖丁ぼうちょうを取出し、高くかざして、月の光で刃を調べた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
馬琴の小説はイヤに偏屈で、隅から隅まで尺度ものさしを当ててタチモノ庖丁ぼうちょうで裁ちきったようなのが面白くなくも見えましょうが、それはそれとして置いて、馬琴の大手腕大精力と
「まず——まず、人きり庖丁ぼうちょうをしまわれて、おかけなされ。話がある」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
店では小僧がひとり、肉切庖丁ぼうちょうをといでいる。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おろ庖丁ぼうちょう大小。鱈籠たらかご
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
足を洗った銀子に、一年半ばかり忘れていた靴の仕事が当てがわれ、彼女は紅や白粉おしろいがし、ばちをもった手に再び革剥かわそ庖丁ぼうちょうが取りあげられた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
やおら片手の出刃庖丁ぼうちょうを持ちなおし、それを前方へつき出してどなった。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)