平清ひらせい)” の例文
「姫路侯のお留守役は、お留守居役中での渋いのどだそうで、平清ひらせいや両国あたりでは、もっぱら評判でござんすが。ねえ、小秀ちゃん」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度四年目の夏のとあるゆうべ、深川の料理屋平清ひらせいの前を通りかゝった時、彼はふと門口に待って居る駕籠の簾のかげから、真っ白な女の素足のこぼれて居るのに気がついた。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その日には城から会場へく。八百善やおぜん平清ひらせい川長かわちょう青柳あおやぎ等の料理屋である。また吉原に会することもある。集会には煩瑣はんさな作法があった。これを礼儀といわんは美に過ぎよう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これ幸いと声をかけて、旦那は深川の平清ひらせいに来ているので、私がおまえさんを迎いに来たと云う。お俊も万力に対しては内々用心していたのでしょうが、そこが運の尽きと云うのでしょう。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「石見橋なら石見橋、蓬莱橋なら蓬莱橋、蛤町の河岸なら蛤河岸さ、八幡前、不動前、これが富岡門前の裏になります。」という時、小曲こまがりをして平清ひらせいの植込の下なる暗い処へ入って蔭になった。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幸「今日はお開帳へまいって、人込で逆上のぼせたから平清ひらせいで支度をして、帰りがけだが、今夜は柳島へ泊るつもりで、近所を通るついでに、これが親方に近付になりたいと云うから、お邪魔に寄ったのだ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ム。平清ひらせいに、寄りあいがあるでのう。——どうじゃ、わしののどは、近頃は、ずんと、しぶかろう」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)