山岨やまそば)” の例文
実は、この段、ささやき合って、ちょうどそこが三岐みつまたの、一方は裏山へ上る山岨やまそばの落葉のこみち。一方は崖を下る石ころ坂の急なやつ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大鋸おおがのひびきも斧の音もきこえず、馬鈴薯じゃがいも辣薤らっきょうか、葉っぱばかりさやさや揺れているしんとした山岨やまそばの段々畑から派手なような寝ぼけたような歌ごえが聞えてくるというのは
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ひとりゆくこの山岨やまそばは落葉のみ溜り湿しめれり。落葉踏みつつ行けば、いづく飛び鵯高音うつ。かさこそり、くぬぎの枯葉わがかたへまた声立てぬ。日おもての草崖薄くさがけすゝき、その穂にも落葉かかれり。
其年活けた最初の錦木は、奥州の忍の里、竜胆りんどうは熊野平碓氷の山岨やまそばで刈りつゝ下枝を透かした時、昼の半輪の月を裏山の峰にして、ぽかんと留まつたのが、……其の木兎で。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひとりゆくこの山岨やまそばは、落葉のみ溜り湿しめれり。落葉踏み踏みつつ行けば、いづく飛び鵯高音うつ。かさこそり、くぬぎの枯葉わがかたへまた声立てぬ。日おもての草崖薄くさがけすすき、その穂にも落葉かかれり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
近江おうみ、越前の国境くにざかいすさまじい山嘯やまつなみ洪水でみずがあって、いつも敦賀つるが——其処そこから汽車が通じていた——へく順路の、春日野峠かすがのとうげを越えて、大良たいら大日枝おおひだ山岨やまそば断崕きりぎしの海に沿う新道しんみちは、崖くずれのために
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山岨やまそば石畳道いしだたみみちにあたる日のこのあかるさよ冬とし思ふに
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)