多度津たどつ)” の例文
「唐草銀五郎という方で、多度津たどつへ立った街道へ、すぐ由造を追いかけさせたのだから、もう今日あたりは連れて帰ってくる時分だけれど……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その前に岩国の錦帯橋きんたいばし余儀よぎなく見物して、夫れから宮島を出て讃岐の金比羅こんぴら様だ。多度津たどつに船が着て金比羅まで三里と云う。行きたくないことはないが、金がないから行かれない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
船長が戸口の処まで来て『皆さんお粗末なんで』と一寸帽子をつて挨拶する。脱つた後の頭のてつぺんが禿げて居た。一寝入りして眼を覚すと夜も更けた。岸の灯が近づくと其処は讃州さんしう多度津たどつだ。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
こんぴらは多度津たどつから一番の汽車で朝まいりをした。また「こんぴらふねふね」をうたい、長い、石段をのぼってゆきながらあせを流しているものもある。そんななかで大石先生はぞくりとふるえた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
あんまり暑いので、母と夜更けの浜へ涼みに行き、多度津たどつ通いの大阪商船の発着所の、石段のところで暫く涼む。露店で氷まんじゅうや、冷し飴を売っている。暑いので腰巻一つで、海水へはいる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
多度津たどつへ着いて、金毘羅こんぴらへ參つて、其處で二晩泊つて、鞘橋さやはしの上で魚のやすいのに驚いたりして、善通寺から丸龜へ出て、其處から便所のない和船に乘つて、つうじをもよほしたのをこらへ/\て備中びつちゆうへ渡つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
六本木の多度津たどつ京極の屋敷の門前で、またひと刻。
同じく多度津たどつでは
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「では親分、行ってまいります。道中はお気遣きづかいなく、やがて多度津たどつの港で落ち合います」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで俺は、道を代えて讃岐境さぬきざかいから、山越えで阿波へ入りこむつもり、一足先に多度津たどつまでしているから、てめえは早速、お千絵様からもう一通貰ってきてくれ、それが今度の眼目だからな
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)