夕明ゆうあか)” の例文
が、下には唯青い山々が夕明ゆうあかりの底に見えるばかりで、あの洛陽の都の西の門は、(とうに霞に紛れたのでしょう)どこを探しても見当りません。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薔薇ばらの花を渡る風にもいます。寺の壁に残る夕明ゆうあかりにもいます。どこにでも、またいつでもいます。御気をつけなさい。御気をつけなさい。………
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はその刹那にこの女が、夢の中にのみ見る事が出来る、例えばこの夏の夕明ゆうあかりのような、どことなくもの悲しい美しさにあふれている事を知ったのであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
初夏の夕明ゆうあかりは軒先にれた葉桜の枝にただよっている。点々と桜の実をこぼした庭の砂地にも漂っている。保吉のセルのひざの上に載った一枚の十円札にも漂っている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
庭には松やひのきあいだに、薔薇ばらだの、橄欖かんらんだの、月桂げっけいだの、西洋の植物が植えてあった。殊に咲き始めた薔薇の花は、木々をかすかにする夕明ゆうあかりの中に、薄甘いにおいを漂わせていた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)