そそ)” の例文
平次はツイ口をれました。金之丞の恐れ入った調子と、それに対照して、八五郎のトボケた調子が、たまらなく平次の好謔心こうぎゃくしんそそったのでしょう。
然しこのまずしい小さな野の村では、昔から盆踊ぼんおどりと云うものを知らぬ。一年中で一番好い水々みずみずしい大きな月があがっても、其れは断片的きれぎれに若者の歌をそそるばかりである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
目の下が、軒並の棟を貫いて、この家の三階へ、切立てのように掛けた、非常口の木の階段だったのが分りました。いずれ、客の好奇心をそそろうといったあつらえと見えます。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このふれごとは、短いながら、人の眼前の快楽をそそるにはかなりの力を持っていました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
表通りは人目が多いので、墓場の中を通って綾吉の長屋へ通ううち、臆病な人に見つかって、幽霊と間違えられたのが、ひどくお喜多の好奇心をそそりました。
下駄穿げたばきに傘を提げて、五月闇さつきやみの途すがら、洋杖ステッキとは違って、雨傘は、開いてしても、畳んで持っても、様子に何となく色気が添って、恋の道づれの影がさし、若い心をそそられて
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駒井甚三郎は、お角の疑いに何をかそそられて沈黙しましたが、急に打解けて
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
甲府にいる時に、お君はたしかに神尾が一旦は思いをかけた女である、それをこの男が神尾へ売り込むとすれば、今でも神尾の好奇心をそそるに充分であることはわかっているのであります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長崎屋の娘お喜多の浮気心をそそって、囲いの鍵を盗み出させようとしましたが、妹と触れ込んだお京は、その実半之丞の女房とさとられて、驕慢きょうまんなお喜多の妬心としんあおり、少し賢くない利吉を煽動せんどうして
そそる。……
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お浜の附け加えたる言葉は竜之助の帰心きしんそそるように聞えたか
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何だか知らないが、その声が竜之助の心をそそりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いよいよ人の心をそそるようです。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)