哀憐あわれみ)” の例文
深い哀憐あわれみのこころが岸本の胸にいて来た。そのこころは節子を救おうとするばかりでなく、また彼自身をも救おうとするように湧いて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「御免なすって、」と盗むように哀憐あわれみを乞う目づかいをする。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は下手へたに節子を避けようとするよりも、そこまで哀憐あわれみを持って行ったことからかえって自分の心の軽くなるのを覚えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は節子に対する哀憐あわれみを自分の行けるところまで持って行こうとして、兄に隠し、あによめに隠し、祖母さんに隠し、久米に隠し、自分の子供にまで隠し
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生みの母を求める心は、早くから半蔵を憂鬱ゆううつにした。その心は友だちを慕わせ、師とする人を慕わせ、親のない村の子供にまで深い哀憐あわれみを寄せさせた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
哀憐あわれみが捨吉の胸に起って来た。彼は夫婦と車座になって、部屋の畳の上に額を押宛てながら、もうそろそろ年寄と言っても可い人達のかわるがわるする祈祷きとうの言葉を聞いた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)