哀惜あいせき)” の例文
一面からえば氏はあまり女性に哀惜あいせきを感ぜず、男女間の痴情ちじょうをひどく面倒めんどうがることにおいて、まったくめずらしいほどの性格だと云えましょう。
青い焔が燃え、赤い表紙が生き物のようにり始め、やがてそれが赤い焔になって行った。かすかな哀惜あいせきの思いに胸がつまった。私は電信の下士官に話しかけた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
美しい、と申しあげました。私は、私の顔を愛して居ります。いいえ、哀惜あいせきして居ります。白状なさい、あなたさまも全く同じような一夜をお持ちなさいましたことを。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こんなにも古ぼけた傷ましい姿になり果てたトラックへの限りない哀惜あいせきのこころであった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)