あらか)” の例文
旧字:
で、定った物のほかに二品ほど附ける様にと註文し、酒の事で気を揉むのをも慮ってあらかじめ二三本の徳利を取り寄せ自分で燗をすることにしておいた。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
彼多病にして懦質だしつもとより将軍の器にあらず、故に前将軍家慶いえよしあらかじめその不肖を知り、水戸烈公の子慶喜よしのぶをして一橋家を継がしめ、以て他日将軍たるの地を為さんとせり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかし何十株か何百株かの持主として、あらかじめ資格を作って置かなければならない父は、どうして金の工面をするだろう。事状に通じない健三にはこの疑問さえ解けなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は愕然がくぜんとして、泣くに泣かれぬような心持がした。自分が長い間無沙汰していた事などは忘れて、病気している事位は、あらかじめ知らせてくれてもそうなものにと、驚きもし悲しみもした。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
金高かねだかものでもあり、口が遠くて長くなる間に、どんな事が起らぬとも限らぬと思ったので、そこでなかなかウッカリしておらぬ男なので、その幅の知れないところへあらかじめ自分の花押かおうを記して置いて
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うなると彼は、今日自分の遣つた事は、あらかじめ企んで遣つたので、それが巧く思ふ壺にはまつて智恵子に自白さしたかの様に考へる。我と我を軽蔑さげすまうとする心を、強ひて其麽そんな風に考へて抑へて見た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「少し無理なつもりだが表題だからまず負けておくとしよう。それから早々そうそう本文を読むさ、君は声が善いからなかなか面白い」「ぜかえしてはいかんよ」とあらかじめ念を押してまた読み始める。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)