三昧境さんまいきょう)” の例文
すでにこの小説の躍動的な面白さ美しさは、天を飛び、史実の領域を遠く下界へ捨て去って、直線を描いて三昧境さんまいきょうを走っている。
主膳が入木道にゅうぼくどうを試みるのを、朝のおつとめの快事とするように、お絹がお化粧にかかる時が、この女の三昧境さんまいきょうかも知れません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芸術と金といえば大変仲の悪いものの如く聞こえるが、その愛するという心の動き方については殆んど同じ三昧境さんまいきょうを得ているある老人があった。
彼の安静な、そしてまた業苦多い、孤独の三昧境さんまいきょうは既にこの二三年前から内からも外からも少しずつ破壊されていた。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
そうしてその清貧と静寂との内に、任運無碍にんぬんむげ三昧境さんまいきょうを味い得たことにあるのです。その真意を忘れ、形式に枯死する今の茶道と、心において何の連絡があるでしょう。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私はこれが宗教だと云うようなものがあるとすれば、ただ、こつこつ書いている。その三昧境さんまいきょうにあるような気がする。厭な言葉だけれども、私は万年文学少女なのでもあろう。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
96 舞い男——イスラム教の教団の一つに歓喜して踊り狂うことによって神との合一の三昧境さんまいきょうを現出しようとするのがあるが、この教団に属する修道者がカランダールである。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
オースチン老師はその以前まえから固く眼を閉じ首を垂れ、今日で云えば精神集中、無念無想の三昧境さんまいきょう——この婚礼の成り立たぬよう、九献の盃飛び散って儀式乱脉らんみゃくになるようにと
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おそった災禍さいかはいろいろの意味で良薬となり恋愛においても芸術においてもかつて夢想だもしなかった三昧境さんまいきょうのあることを教えたであろうてる女はしばしば春琴が無聊ぶりょうの時を消すために独りで絃を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この二人の芸術家は、いずれも自らの発作について手記を残しているのであるが、先ず発病の時期に宗教的な三昧境さんまいきょうを見る。小林はルリヂヤス何とかと云った。
精神病覚え書 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)