一口噺ひとくちばなし)” の例文
ましてそういう、世の耳目に触れた記事を、取り入れないではおかない種類では、雑俳ざっぱいに、川柳せんりゅうに、軽口かるくちに、一口噺ひとくちばなしのがしはしなかった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
老嫗ろうおう一口噺ひとくちばなしが一生涯のもといかためたり、おのれながらなんでそんなつまらぬことが、こんなに自分を刺激したろうと驚くことがままある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
自分の読んだ一口噺ひとくちばなしからこの二字を暗示された彼は、二つのものの関係をどう説明していいかに迷った。彼は自分に大事なある問題の所有者であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中には一口噺ひとくちばなしか何かを書いて、わざと秘密らしく帯封をして、かの可笑しな画を欲しがるものに売るのである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
店頭に「ロシア当代大作曲家の歌ったレコード」と大きく貼り出して売ったという一口噺ひとくちばなしが伝わっている。
いまだからこそ一口噺ひとくちばなしにでもありそうな気がするのだが、十九世紀十年代のはなしとして、英国王室造船所の技師長が、有名な造船業者スコット・ラッセルにむけて
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
冷血な生まれつきと見えて、リキュールやコニャックをいくら飲んでも酔っぱらいもせず、だらだらした面白くもない調子で、陳腐な一口噺ひとくちばなしを並べ立てるのであった。
苦しさだの、高邁こうまいだの、純潔だの、素直だの、もうそんなこと聞きたくない。書け。落語らくごでも、一口噺ひとくちばなしでもいい。書かないのは、例外なく怠惰である。おろかな、おろかな、盲信である。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)