あわた)” の例文
何んとなく此界隈を睥睨へいげいして居る感じですが、今朝はさすがあわただしく、人の出入が、町の人達の好奇と苛立いらだたしさをかき立てて居ります。
二年ののちには、あわただしく往返する牽挺まねき睫毛まつげかすめても、絶えて瞬くことがなくなった。彼はようやく機の下から匍出はいだす。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
どういう火急かきゅうな事情が起って、こうまであわただしく船から去って行かなければならなかったか? 前後の事情からおすと二十三人が船を去ったのは
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
街の上には、いつものように黄昏たそがれあわただしさが流れて、昼の銀座から、第二の銀座に変貌しつつあった。
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
モッフが重い歩調あしどりで波止場の方へ帰ってゆくと、ガルールはあわただしく場末の汚い街へ姿を消した。
その時一人の男あわただしく驅け入りて、門口に立ちたる我をきまろばし、扉をはたと閉ぢたり。
果して棭斎が此旅をなしたとすると、それは余程あわただしい旅であつたと見なくてはならない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
余が自ら我が声を怪みて身辺を見廻りし頃には判事も警察官も目科も書記も皆余の周囲まわりに立ち「何だ「何事だ「うした「うしました」とあわただしく詰問つめとう声、矢の如く余が耳を突く
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あわただしくはいって来た助手の村尾健治が、ドアーを開けながら、いつになく弾んだ声でいった。
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
斯く云う折しも入口の戸をあわただしく引開けて入来るは彼の谷間田なり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
福山藩士に稲生いなふ某と云ふものがあつた。其妻が難産をして榛軒がむかへられた。榛軒は忽ちあわただしく家に還つて、妻志保に「かえの著換を皆出せ」と命じ、これを大袱おほぶろしきつゝんで随ひ来つた僕にわたした。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)