轢音れきおん)” の例文
大正池のほとりに出て草臥くたびれを休めていると池の中から絶えずガラガラガラ何かの機械の歯車の轢音れきおんらしいものが聞こえて来る。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
車輪とレールとの間に、確かな手応てごたえがあった。あのたまらなくハッキリした轢音れきおんが……。佐用媛がいきなりホームからレール目懸めがけて飛びこんだのだ!
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二三ど寝返りをうったと思うといびきをかき始めた、しかもそこらにありふれた俗な種類の鼾ではない、それは、極めて組織立った五音階の轢音れきおんと擦音とより成り
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は久しぶりで騒々しい都会の轢音れきおんから逃れて神経にふれるやうな何の物音もない穏やかな田舎の静寂を歓びながら長々と椽側近くに体をのばして、甘つたるい洋紙の匂や
白痴の母 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
役所でも会社でも言わば一つのオーケストラのようなものであってみれば、そのメンバーが堅い手首でめいめい勝手にはげしい轢音れきおんを放散しては困るであろうと思われる。
「手首」の問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それで取っ手を回すと同じリズムでキュル/\/\と一種特別な轢音れきおんを立てるのであった。
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かなりピッチの高い共鳴器で聞くとチリチリチリといったように一秒間に十回二十回ぐらいの割合で断続する轢音れきおんが聞こえる、それがいくらかこの蝗群の羽音に似通にかよっているのである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)