薄氷はくひょう)” の例文
実際はその享楽家的な外貌がいぼうの下に戦々兢々せんせんきょうきょうとして薄氷はくひょうむような思いの潜んでいることを、俺は確かに見抜いたのだ。
白「其処そこでどうも是迄の身の上では、薄氷はくひょうむが如く、つるぎの上を渡るような境界きょうがいで、大いに千辛万苦しんばんくをした事があらわれているが、そうだろうの」
月のすえ二十九日、尊氏は頼尚の案内で、海路、赤間ヶ関から筑前芦屋あしやノ浦へ渡ったが、それは薄氷はくひょうを踏み行くような敵地上陸にことならなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し、幸い薄氷はくひょうを踏む思いの長い三十分は、どうやら無事に過ぎたらしい。やがて足音を忍ぶようにして土岐健助が物置のかげへ来てくれたのは、もう午前二時を少し廻った頃であった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の家来の目には薄氷はくひょうを踏むような危険にみちた道を、主たる彼のみが常に自信をもって踏み渡っていた。その自信とは、ままよ、死んでもいいや、ということだ。彼は命をはる人であった。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
薄氷はくひょうのうえに立った心地である。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と僕は薄氷はくひょうの気味だった。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
察し入るよ。この道誉も、やっと肩抜けはしたが、しかし、これまでの道中では、いくたび薄氷はくひょうを踏む思いを
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じつに思いきった行動に出られたもので、薄氷はくひょうを踏み、つるぎのを渡るにひとしい、冒険だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄氷はくひょうをふんできたような心境が、後になってゾッと背すじを這いあがった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)