薄氷うすらひ)” の例文
「ツインガレラの顔は脂粉しふんに荒らされてゐる。しかしその皮膚ひふの下には薄氷うすらひの下の水のやうに何かがまだかすかにほのめいてゐる。」
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
水杭の根に薄氷うすらひがからみ、折蘆のあいだで、チチと鋭い千鳥の声がきこえる。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もすがら底びえしつつありたるがあかつきには薄氷うすらひが見ゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
冬の田に月の光の來るとき稻莖いなぐきは見ゆさざら薄氷うすらひ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
薄氷うすらひの溶くる春のあをさに
蛇の花嫁 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
結びあまりし今朝の薄氷うすらひ
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それは丁度朝日の光の薄氷うすらひにさしてゐるやうだつた。彼は彼女に好意を持つてゐた。しかし恋愛は感じてゐなかつた。のみならず彼女の体には指一つさはらずにゐたのだつた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
冬の田に月の光の来るとき稲茎いなぐきは見ゆさざら薄氷うすらひ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)