蓼科たてしな)” の例文
後ろを振りむくと、青緑色の山の額や肩や腰が、深い雲霧の隙をぬすんで私達の足の疲れをねぎらつてくれる。多分それは大笹峰や蝶々深山てふてふみやま、車山、蓼科たてしな山などであつたろう。
霧ヶ峰から鷲ヶ峰へ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
信州蓼科たてしな山麓の豊平とよひら村に疎開していた私たちは、配給の砂糖さえ思うにまかせぬ状態であったので、子供の頃を思い出し、砂糖黍の種子を手に入れて栽培してみたことがあった。
甘い野辺 (新字新仮名) / 浜本浩(著)
眼前めのまへには蓼科たてしな、八つが嶽、保福寺ほふくじ、又は御射山みさやま、和田、大門などの山々が連つて、其山腹に横はる大傾斜の眺望は西東にしひがしひらけて居た。青白く光る谷底に、遠く流れて行くは千曲川の水。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
蓼科たてしなはかなしき山とおもひつつ松原まつはらなかに入りて来にけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
九月二十四日 蓼科たてしな高原。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
蓼科たてしなに春の雲今動きをり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)