ちゃく)” の例文
戸沢の勧誘には、この年弘前にちゃくした比良野貞固さだかたも同意したので、五百は遂にこれに従って、専六が山田氏に養わるることを諾した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三人が東京にちゃくした時毅堂は既に皀莢阪下の官邸を政府に返還し、下谷竹町四番地に地所家屋をあがない門生とともに移り住んでいたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
飢えたる者に自らの衣を脱いで親しく掛けられ、更にその者の死後、棺の上に畳みおかれた衣を再び平然とちゃくされたという。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
俺の秘密な心のなかだけの空想が俺自身には関係なく、ひとりでの意志でちゃく々と計画を進めてゆくというような、いったいそんなことがあり得ることだろうか。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
王すなわち五百金銭を懸賞してその人を募るに、独身暮しで大貧乏ながら大胆力の者ありて募りに応じ、甲冑をちゃくし刀杖を執って夜塚間に至ると、果して王を喚ぶ声す。
四月十三日 六時前天王寺ちゃく、汽車にて帰阪。灘万泊り。喜代門所見。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
わたくしはまた枕山が江戸にちゃくするや否や直に詩界の諸先輩を歴訪し、その詩を示して先輩を驚したことを疑わない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて更に米艦スルタン号に乗って、この度は無事に青森にちゃくした。佐藤弥六さとうやろくさんは当時の同乗者の一人いちにんだそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)