はら)” の例文
ミネの嘆きのつきあいをさせられる悠吉が、もてあましていうのへ、ミネは泣きはらした顔を、それでもそのときは笑いながら
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
美しい顔を泣きはらしながら、ただふんどしだけを身に纏うてとぼとぼと夕日の下を西の方へ歩んで行った。百姓どもは皆この臆病者をあざわらった。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中にを少しはらした若い弟子が一人仕事をして居たので、その弟子に来意を告げると、翁は今朝けさ巴里パリイかれたと云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そうだ、おせんは身に覚えが無いと言って泣いたりしたが、しまいには観念したと見え、紅く泣はらした顔を揚げて、生家さとの方へ帰れという夫の言葉にしたがった。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、やがて台所へ、おえつが眼を泣きはらした顔して退さがって来た。何か、良人の気を損ねたのであろう。煎薬せんやくの土瓶をこん炉へかけながら袖口で涙をふいていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何か心配し迎えて見ると、急に目をはらし痛みに堪えず来たという。十二時近く又自動車で須田病院というのにつれてゆき、風眼ではないことが分ったので大安心。
ひとり娘をうしなったお伊勢は眼を泣きはらして半七のまえに出た。かれは五十に近い大柄の女であった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
富岡は、一瞬、吃驚びつくりした様子だつたが、何も云はないで、眼を赤く泣きはらして、自分の前に立つたゆき子を見ると、すべてを観念した様子で、「何時来たの?」と、静かに聞いた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
秘蔵の義董ぎとうふくそむいてよこたえた額際ひたいぎわを、小夜子が氷嚢ひょうのうで冷している。蹲踞うずくまる枕元に、泣きはらした眼を赤くして、氷嚢の括目くくりめに寄るしわを勘定しているかと思われる。容易に顔を上げない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と眼も何も泣きはらして、無類むるいの別嬪がしごきの扮装なりうちへ這入りました。
節子は看護に疲れた顔を泣きはらしながら病室の方で岸本を待ち受けていた。岸本が病人の側で彼女と一緒に成った頃は、義雄も輝子も急いで集まって来た。死は既に嫂の身体に上りかけていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
奥様は泣はらした御顔を御出しなすって、きょうの御祝の御余おあまりの白米や金銭おかねをこの女に施しておやりなさるところでした。奥様が巡礼を御覧なさる目付には言うに言われぬうれいが籠っておりましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)