つい)” の例文
当時又可笑しかったことには赤木と俳談を闘わせた次手に、うっかり蛇笏を賞讃したら、赤木はかさず「君といえどついに蛇笏を認めたかね」
飯田蛇笏 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ありとある力を、ついに無にせむ。
愚かなるものよ (新字新仮名) / 徳永保之助(著)
しかしいくら年はとっても、林黛玉はついに林黛玉である。彼女が如何に才気があるか、それは彼女の話振りでも、すぐに想像が出来そうだった。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
湖心亭はついに湖心亭であり、小便は畢に小便である、私は靴を爪立てながら、匆々四十起氏の跡を追った。出たらめな詠歎なぞに耽るものじゃない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
常子は「順天時報じゅんてんじほう」の記者にこの時の彼女の心もちはちょうどくさりつながれた囚人しゅうじんのようだったと話している。が、かれこれ三十分ののちついに鎖のたれる時は来た。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、兎に角「人間らしさ」にも動かされぬようになったとすれば、人生は到底住するに堪えない精神病院に変りそうである。Swift のついに発狂したのも当然の結果と云う外はない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元来彼は何のために一粟野廉太郎の前に威厳を保ちたいと思うのであろう? 粟野さんはなるほど君子人かも知れない。けれども保吉の内生命ないせいめいには、——彼の芸術的情熱にはついに路傍の行人こうじんである。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)