湧出ゆうしゅつ)” の例文
神はただ一瞬のうちに、多年の勤労と努力との結果を消滅させ得る。そしてもし欲するならば、泥濘でいねいから永遠なるものを湧出ゆうしゅつさせ得る。
蕩々とうとうとして洋の東西にき返って居る今世こんせのことなれば、あるいは欧米の文士間などより、前記先生の所説のごとき議論が、何時湧出ゆうしゅつしてくるかも知れぬ
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「伊号一〇一は、爆雷にやられて、海底にもぐりこんだそうですが、特務機関の報告によると、海面に湧出ゆうしゅつした重油の量が、ちと少なすぎるという話ですな」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
薬師如来の未曾有みぞうの光りを、根源において湧出ゆうしゅつせしめたものは、所詮しょせん白鳳の祈りに他ならないであろうから。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
白骨温泉から梓川をわたって、霞沢岳をえ、この峡谷に下りて、槍ヶ岳へ登ったときは、夏とはいえ、寂寥無人、太古の如き感があって、温泉の湧出ゆうしゅつはあっても、今日のような宿屋は
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それもいつに、私の家に豆腐に適するすばらしい良水が湧出ゆうしゅつしたためであった。
美味い豆腐の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
真の近代芸術は、いつの日か一群の天才たちに依って必ず立派に創成せられる。それは未だ世界に全く無かったものだ。お手本から完全に解放せられて二十世紀の自然から堂々と湧出ゆうしゅつする芸術。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは、書の精神にも、あるいはまた南宋なんそう画の精神とも共通する処のものである。南宋画が北画に対して起った原因と丁度近代絵画が湧出ゆうしゅつした事とは、頗るそれも類似せる事を私は感じるのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)