権輿けんよ)” の例文
然りとすれば一たび筆を通俗の小説にらんとするもの、淫事を他にしてまた何をか描かんや。『源氏物語』は我国淫本の権輿けんよなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
歌集の権輿けんよだから本体とあがむべきだと考えたり、勅撰和歌集は何れもありがたいもの故、どれもその点で甲乙はないとして
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
これが幕府が蘭法医を任用した権輿けんよで、抽斎の歿した八月二十八日にさきだつこと、僅に五十四日である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
蜜蜂みつばち物語*』と改題して再版するに及び、はなはだしく世間の攻撃を受け、従ってまた著しく世人の注意をひくに至ったものであるが、これがそもそも英国における利己心是認思想の権輿けんよである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
即ちゲーテが作『若きウェルテルのうれい』、シャトオブリヤンが作『ルネエ』のたぐいなり。わが国にては紅葉山人こうようさんじんが『青葡萄あおぶどう』なぞをやその権輿けんよとすべきか。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)