東下とうげ)” の例文
「いずれにせよ、尊氏は、八座の宰相の身にありながら、君恩もわすれ、朝命も待たいで、無断、東下とうげをあえてしたことは確かとみゆる」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねて連盟の副頭領ともたのまれていた千石取りの番頭奥野将監しょうげん、同じく河村伝兵衛以下六十余人の徒輩ともがらが、いよいよ大石の東下とうげと聞いて、卑怯ひきょうにも誓約にそむいて連盟を脱退したことが判明した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
と、兵部から自由をゆるされているので、彼が、そこを無断で出入することは頻繁ひんぱんだった。——殊に大石内蔵助が、江戸表へ東下とうげして来て以来は。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尊氏は、弟をそこまで送り出して、同時に東下とうげする諸将たちへも、いちいち一顧いちこずつの別れを送った。
彼の無断東下とうげが、さまで不逞不忠な罪といえるだろうか。朝命を待たず戦争におよんだ例は、古来、たびたびある。——三年ノ役の源義家、ぜん九年のさいの頼義、みなそうだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)