怖々おずおず)” の例文
そして髭を剃るのをやめて、黙々もくもくと、炉端ろばたへ行って坐った。松代は怖々おずおずと、炉端へ寄って行った。そしてお互いにしばらくっと黙っていた。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
生娘の彼女が怖々おずおずした貞節さで身にまとっていた理想主義の覆面から、彼女の真の性質がのぞき出してきた。
ほのかに星の光っている暮方の空を眺めながら、「いっそ私は死んでしまいたい。」と、かすかな声で呟きましたが、やがて物におびえたように、怖々おずおずあたりを見廻して
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小森はリヤカアの後から前の方に出て、どうしたんですかな、あんた、と少し怖々おずおずしながら訊いた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
両手でその石を抜いて、真黒な穴の中へ怖々おずおず手を入れて見た。案の定、手に触るものがあった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、語りながら、少年は尚怖々おずおずと見守っていると、その黒い物は次第に近くよって来る。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
蚯蚓みみずのような蛇を、怖々おずおず使うザラの蛇使いと違って、これは黒髪山の奥に、蛇と一緒に育った娘、大小数百条の蛇を、我が子のように使いこなす、世にも不思議な芸当に御座います。
久助は家来であり、かつは男であるから、遠慮して縁側に腰をかけていたが、親子ふたりづれの女は勧められるままに怖々おずおずと座敷へあがって、やはり縁側に近いところに座を占めていた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女は、一人、怖々おずおずと陣幕の路地を通って行った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はそんな質問をしながら怖々おずおずとその人間に触って見るのであった。彼は、それを人形とは感付かないで、仮死体が、薬品のために固くなっているように思っているのであった。
或はこの水中に何物か沈んでいるのではあるまいか、物は試しで一応その掻堀かいぼりをして見ろと云うことになって、下男や家来共はその用意に取かかるところへ、この噂を聞いて奥から怖々おずおず出て来たのは
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)