弾条ばね)” の例文
彼はこの途轍もない時計を訂正しようと、自分の時打ち懐中時計の弾条ばねに手を触れた。その急速な小さな鼓動は十二打った、そして停まった。
仮りに目方の方が不変であるとしても、これを比較すべき弾条ばねの弾性というものがなかなか厄介千万なものである。これは第一、温度によって変化する。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だが、お民の母性的注意深さも、それには敗けて居ず、今日も京子の後からついて来た。京子はそれに反撥する弾条ばね仕掛けのようなげしい早足で歩きながらお民を振り返った。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
色々実験の結果モーターの取付けに適当な弾条ばねをつけただけで、この問題は容易に解決された。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
オン・ユアー・マーク、ゲットセッ、道子は弾条ばね仕掛のように飛び出した。昨日の如く青白い月光に照らし出された堤防の上を、遥かに下を多摩川が銀色に光って淙々そうそうと音を立てて流れている。
快走 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
試みに審美的のめがねをかなぐりすてて、一つの心理的なからくりの中の歯車や弾条ばねを点検するような無風流な科学者の態度で古人の連句をのぞいてみたらどうであろうか。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これならば任意に長い記録を作る事も理論上可能なわけであるが、なんと言っても電気装置などを使わずに弾条ばねと歯車だけで働くグラモフォンの軽便なのには及ばないわけである。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)