そうしておいて竜之助は、懐中から宗十郎頭巾そうじゅうろうずきんを出してかぶりました。頭巾を冠ってしまってから、座敷の隅をさぐるとそこに杖が立てかけてありました。
見ると、すぐ前に、黒の着流しに宗十郎頭巾そうじゅうろうずきんで顔を包んだ侍が、片手に細長い白い棒のような抜身を下げて、片手で霙を除けながら煙のように立っている。
兼てその様子をしって居るから、緒方の書生が、気味の悪い話サ、大小をして宗十郎頭巾そうじゅうろうずきんかむって、その役人の真似をして度々たびたびいって、首尾く芝居見物して居た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
芝の大鐘おおがねは八ツ時でちらり/\と雪の花が顔に当る処へ、向うから白張しらはりの小田原提灯を点けて、ドッシリした黒羅紗くろらしゃの羽織に黒縮緬の宗十郎頭巾そうじゅうろうずきん紺甲斐絹こんがいきのパッチ尻端折しりはしおり
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒縮緬の宗十郎頭巾そうじゅうろうずきんかぶって、かなめの抜けた扇を顔へ当てゝ、小声でうたいを唄って帰ります所へ、物をも言わず突然だしぬけに、水司又市一刀を抜いて、下男の持っている提灯を切落すと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)