六刻むつ)” の例文
やがて程なく、夜明けの六刻むつが鳴るとたんに、郁次郎は奉行所の牢獄の前で斬られるであろうことを心のうちで、待っているのだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下城帰宅したのが暮れ六刻むつ、一風呂ふろ浴びて夕食、いまその食事が下げられて、奥をはじめ子供達は部屋へはいり、家臣は早く戸締りを見て、これも下へ引きとって間もなくではないか。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
関所のさくは、六刻むつで閉まる。それと一緒に、床几しょうぎをたたんでいた茶店のおやじは、後ろに立って、こうあえぎ声でよぶ人影に
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああさようでござるか。では、六刻むつ過ぎに出なおしてお訪ね下さい。その御人ごじんは、今朝から市中へ合力ごうりきに出ておられます」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕方の六刻むつというと、もう三道の客が織るように入ってくる。温泉町ゆまちの入口は馬やかごや運送の人足で埋まっていた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今しがた門限の六刻むつが鳴って、役所の中には、疲れた暮色が沈みかけていた。嵐がぶつかッて来たようなそこの物音に、革袴かわばかまの番士は、びっくりしたように飛び出して
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へい。ひつじこくに火入れをして、暁方あけがた六刻むつに、竈開かまあけをすることに、何十年もの間極っているんでがす。小屋のめえに砂時計があるだから、それを見ていておくんなさい」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お……もう六刻むつ過ぎであろうに、きょうの騒動で燭台の支度までおくれたか」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家族揃ってする朝の食事は、それからであったらしく、お城の六刻むつが鳴ってからしばらくすると、やがて登城の支度をした彼の姿が、妻や、主税の憂わしげな顔に送られて、玄関を踏みだしていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六刻むつかぎりで、川筋もおかも往来止めだぞうっ」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)