倒錯とうさく)” の例文
名の無い形と色と匂と動作とが、距離きょりや時間の観念の奇妙に倒錯とうさくした異常な静けさの中で、彼の前にたちまち現れ、たちまち消えて行く。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
女性には、このような肉体倒錯とうさくが非常にしばしば見受けられるようである。動物との肉体交流を平気で肯定しているのである。
女人訓戒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
孤独はしかし、倒錯とうさくしたもの、不均衡なもの、おろかしいもの、ふらちなものをも、また成熟させるのである。
すべて、これらのお慈悲、ひねこびた倒錯とうさくの愛情、無意識の女々しき復讐心より発するものと知れ。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
敬愛の念が、ぎくしゃくと奇妙に倒錯とうさくして、ついに、仙台あなどるべからず、とでもいうような「張り合う」気持などが出て来て、あんなまずい手紙を書いてしまったのではあるまいか。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)