“は”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
語句割合
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
まことにつまらない思いで、湯槽からい上って、足の裏のあかなど、落して銭湯の他の客たちの配給の話などに耳を傾けていました。
トカトントン (新字新仮名) / 太宰治(著)
この雨にふり籠められたばかりでなく、旅絵師の澹山は千倉屋の奥の離れ座敷に閉じ籠って、当分は再び草鞋わらじ穿きそうもなかった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
青いペンキのげかかった木造の二階建になった長い長い洋館で、下にはたくさんの食糧品を売る店がごたごたと入口を見せていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのそばにえている青木あおきくろずんで、やはり霜柱しもばしらのためにいたんではだらりとれて、ちからなくしたいているのでありました。
小さな草と太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのそばにえている青木あおきくろずんで、やはり霜柱しもばしらのためにいたんではだらりとれて、ちからなくしたいているのでありました。
小さな草と太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
四百人弓矢を帯びて三重に兎どもを取り巻き正使副使と若干の大官のみ囲中に馬をせて兎を射、三時間足らずに百五十七疋取った。
やや長く伸びた髪、肩先にとまつてゐる頭花ふけ、随分ぢぢむさい顔なり姿なりだなと卓の向うにめてある鏡を見ながら礼助は思つた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
何のまじないかあわてて煙草を丸め込みその火でまた吸いつけて長く吹くを傍らにおわします弗函どるばこの代表者顔へ紙幣さつった旦那殿はこれを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ついては、槌屋つちやから暇をとって早速帰って来いという話が来たために、治郎吉の立つ四、五日まえから、お仙は、眼をらしていた。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひたっと、体を、牢格子のじょうへ押しつけた蔵六の手は、わなわなと、腰の鍵を外していた。ガチッと、掌のなかで、錠のつのねた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、ね上がる。寝台の鉄具かなぐにぶつかる。椅子いすにぶつかる。暖炉だんろにぶつかる。そこで彼は、勢いよく焚口たきぐちの仕切り戸をける。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
坂を下りた処の店は狭いのですが、年を取った頭の禿げた主人が、にこやかで気安いのでした。そこへもちょいちょい立止りました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ここに香坂かごさかの王、歴木くぬぎに騰りいまして見たまふに、大きなる怒り猪出でて、その歴木くぬぎを掘りて、すなはちその香坂かごさかの王をみつ。
医者は病人の様子を見て、脈を取って今血をいたばかりのところだから、くわしい診察は出来ないと云って、色々養生の事を話した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
岩松は一生懸命弟の爲に辯解しましたが、結局、弟の上にかゝる疑ひは、容易にれるものでない事を呑込まされただけの事でした。
やがて、あちらのやまを、海岸かいがんほうへまわるとみえて、一せい汽笛きてきが、たかそらへひびくと、くるまおとがしだいにかすかにえていきます。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
魚眼ぎょがんというりのある眼、りのふかい鼻すじ、まゆの形、いい唇、個々に見れば見るほど、なおどこかで記憶のある女の顔であった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... その代り玉子は人工孵卵器ふらんきで孵化させなければなりません」老紳士「鶏小屋の掃除はどうします」中川「毎日一度ずつ中をいてふんを ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、それは蝋引ろうびきのベル用の電線で、この天井裏をい廻っている電灯会社の第四種電線とは、全然別種のものであることが判明した。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すがすがしい天気てんきで、青々あおあお大空おおぞられていましたが、その奥底おくそこに、ひかったつめたいがじっと地上ちじょうをのぞいているようなでした。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
其頃そのころ東京とうきやういへたゝむとき、ふところにしてかねは、ほとんど使つかたしてゐた。かれ福岡ふくをか生活せいくわつ前後ぜんごねんつうじて、中々なか/\苦鬪くとうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ね返す力がないわけではないのに、ひつきりなしに先手を打たれるのは、必ずしも年齢の差によるものとばかりは思はれなかつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
おそらく、二人ふたり若者わかものは、そのこえいたであろうけれど、自分じぶん意地悪いじわるさをこころじたのか、こちらをずにいってしまいました。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
カアカア、アオウガアガアガア、と五六みづうへひく濡色ぬれいろからすくちばしくろぶ。ぐわた/\、かたり/\とはしうへ荷車にぐるま
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「税金がまた穴ん中にあの方を突き墜したことになるのね。やっとい上ったところを、頭から無理やりに突き戻して了ったのね。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
嫌だからとて「瓢箪ひょうたん川流かわながれ」のごとく浮世のまにまに流れて行くことはこころざしある者のこころよしとせざるところ、むしろずるところである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その人が玄関からはいったら、そのあとに行って見るとものは一つ残らずそろえてあって、かさは傘で一隅いちぐうにちゃんと集めてあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あわてて二階へせ上って、かいがいしく雨戸を繰りはじめましたが、兵馬はなにげなく二階を見上げますと、いま戸を立てた女は
「ほんまは光ちゃん『電話かけたのんに何でよ帰って来えへんねん! 姉ちゃんの方がよっぽど実意ある』いうて怒りやはるねん」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平次の言葉を静かに聴き入っているうちに、お町の眼の色が次第に力がせて顔には死の色がサッとかれているではありませんか。
その儒教倫理(とばかりは言えない。その儒教道徳と、それからややみ出した、彼の強烈な自己中心的な感情との混合体である。)
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
云い云い姉小路卿は立ち上がり、人形箱の側へ行き、男雛のいている太刀の柄の、金剛石へ手をいれて、グッと強く一押しした。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金襴きんらんの帯が、どんなに似合ったことぞ、黒髪に鼈甲べっこうくしと、中差なかざしとの照りえたのが輝くばかりみずみずしく眺められたことぞ。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おそろしいをむきだした、茶と白のブチ犬が、アシのあいだをつき進んでくるのを見ますと、それこそいのちのちぢまる思いをしました。
武蔵の手には、低く持ったがキラキラと陽の光をねている。そして、飛び上がって仆れたなり山添団八はもう起たないのである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝になっても、体中がれふさがっているような痛みを感じて、お島はうんうんうなりながら、寝床を離れずにいるような事が多かった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ハリスは又その言葉に「ゴルキイの未だに百姓であることはこの点に——即ち百姓育ちをぢる点に露はれてゐる」と註してゐる。
亭主も大喜びでしたがお神さんは亭主に向つて此金剛石このダイヤモンドの指環をめても恥かしく無い位の立派な着物をこしらへてれと頼みました。
金剛石 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
海をも山をも原野をもた市街をも、我物顔に横行濶歩して少しも屈托せず、天涯地角到る処に花のかんばしきを嗅ぎ人情の温かきに住む
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わけて義貞はえを好む。見得を大事に思う。で、大将の気を映して、軍は破竹はちくの勢いをしめし、次の日もさらに南下をつづけていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめは陰にこもった鈍い響きであったが、やがてぜるような轟きに変って、窓のガラスがびりびり鳴るほどの烈しさになった。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「どうだかね。ああくようじゃ」と三沢は答えた。その表情を見ると気の毒というよりむしろ心配そうなある物にとらえられていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、そこだけが窪んでいて、二つのたまめ込まれていて、その珠の中央に、うるしが点ぜられていた。それはそっくり眼であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何を他人がましい、あなた、と肩につかまった女の手を、背後うしろざまにねたので、うんにゃ、愚痴なようだがお前にはうらみがある。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戦国の英雄が諸州におこした頃であったから、長柄の流行は、さかんを極めて、戦場ばかりでなく、平時でも引っ提げて歩く者があった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助そうすけは、うですかとつて、たゞふとつたをとこのなすがまゝにしていた。するとかれ器械きかいをぐる/\まはして宗助そうすけあなはじめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私も寄宿生の乱暴を聞いてはなはだ教頭として不行届ふゆきとどきであり、かつ平常の徳化が少年に及ばなかったのを深くずるのであります。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、わっぱの頬でもるような平手の一てきを食らわせた。なんでたまろう、二つの体は仲よく躍ッてたまりの中へ飛んでいった。刹那。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭がげるから、食ふ事、飲む事、寝る事、頭の兀げる事、その外そんな馬鹿らしい事を、一々のべつに考へてゐなくてはならないと云ふのですか
そして喰べ酔つた友達を見つけると、こんな不心得者を自分の巣から出したのをぢるやうに、何かひそひそ合図でもしてゐるらしかつた。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
つまり表通りや新道路の繁華な刺戟しげきに疲れた人々が、時々、刺戟をずして気分を転換する為めにまぎれ込むようなちょっとした街筋——
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つみなくしてあやまちを得る者は非常の人、くっして、後世こうせいぶ。罪ありてあやまちをまぬかるる者は奸侫人かんねいじんこころざし一時に得て、名後世にず。いにしえてん定まりて人に勝つとはれなり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
口から炎でも吐くように、ちきれそうな血を、体から少し捨ててでもしまいたいような心地だった。城太郎のように、暴れ出したかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その前後には何十ぴきの馬に乗って居るところのシナ官吏が、今日をれと立派な官服を着飾って前駆護衛ぜんくごえいをなして行く。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
どうも是節は不景気でして、一向にういふものがけやせん。御引取り申しても好うごはすが、しかし金高があまり些少いさゝかで。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
思へば戀てふ惡魔に骨髓深く魅入みいられし身は、戀と共に浮世に斃れんか、た戀と共に世を捨てんか、えらぶべきみち只〻此の二つありしのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
私は梨の木に上つて果實の甘い液にナイフのをつける時も、ゐもりの赤い腹を恐れて芝くさのほめきに身をひたす時も
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
わが本隊の五艦は今や全速力をもって敵の周囲をせつつ、幾回かめぐりては乱射し、めぐりては乱射す。砲弾は雨のごとく二艦に注ぎぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
暫くすると、激しい靴音がして独逸兵がを跳ね飛ばすやうな勢で入つて来た。農夫ひやくしやうは両手の掌面てのひらめてゐた顔を怠儀さうにあげた。
露置く百合ゆりの花などのほのかに風を迎へたる如く、その可疑うたがはしき婦人のおもて術無じゆつなげに挙らんとして、又おそれたるやうに遅疑たゆたふ時
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大御舟おほみふねててさもらふ高島の三尾みを勝野かちぬなぎさし思ほゆ」(巻七・一一七一)、「朝なぎに向けがむと、さもらふと」(巻二十・四三九八)等の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
……(かもめ、鴎、鴎に故郷はない。……おかも自分の故郷ではない、海も自分の故郷ではない。……今日もまた空の下のてない漂泊……)
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鷹の羽をいだ古い征矢そやですが、矢の根が確りして居り、それがベツトリ血に塗れて、紫色になつて居るのも無氣味です。
しかしもう主力をぐれた孤軍である。ついには随所で殲滅され、やがて夜の曠野には、その雄たけびもなくなっていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度こうしたけ口を見つけた、彼の心が、その儘止まる筈はなかった——寧ろ、津浪のようにその排け口に向って殺到して行ったのだ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
私は左を下にして横わったままきましたが、勢い余った血液は鼻腔の方からも突き出されて来て、顔の下半分はねばねばしたもので塗りつぶされました。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「では、今夜は、根岸の鶯春亭おうしゅんていでまっていますほどに、ねたらすぐにまいッてくれ。乗りものを待たせて置きますぞ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こんな小さなうちだって、これはたとえば、電気のぼたんだ。ひねる、押すか、一たび指が動けば、横浜、神戸から大船が一艘いっぱい、波を切って煙をくんだ。喝!
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
佐嘉勢腰に藁注連わらしめ平戸勢者大小鞘に白紙三つ巻島原勢者左の袖に白紙大村勢は背三縫に隈取紙を付け各列を定め出歩之刻限を極め暮に及相図を
島原の乱雑記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
濠はそれに併行へいこうして、幅は二間をこえ、通例のもの以上築土も高い。いわゆる町の城廓のそれとなき様式をこの本山日蓮宗八ぽんの寺域もまた踏襲とうしゅうしていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霧は次第に濃く群がってその草原の上をっている。其処此処に大小の小屋が眼に這入る、今の草刈どもの泊る小屋に違いない。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
ゑりもとばかり白粉おしろいえなくゆる天然てんねん色白いろじろをこれみよがしにのあたりまでむねくつろげて、烟草たばこすぱ/\長烟管ながぎせる立膝たてひざ無作法ぶさはうさもとがめるひいのなきこそよけれ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雪のごと湧きてばたくまつ白の蝶したには暗きさざなみの列
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
助「馬喰町ばくろちょうにも知った者は有るが、うちを忘れたから、春見様が丁度彼所あすこに宿屋を出して居るから、今着いて荷を預けて湯にいりに来た」
火入ひいれにべた、一せんがおさだまりの、あの、萌黄色もえぎいろ蚊遣香かやりかうほそけむりは、脈々みやく/\として、そして、そらくもとは反對はんたいはうなびく。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うららかなうぐいすの声と鳥の楽が混じり、池の水鳥も自由に場所を変えてさえずる時に、吹奏楽が終わりの急なになったのがおもしろかった。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なお、「石走いはばしる垂水の水のしきやし君に恋ふらく吾がこころから」(巻十二・三〇二五)という参考歌がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
モミヅは其頃行四段にも活用しそれをまた行に活用せしめた。「もみだひにけり」は時間的経過をも含ませている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この人は京極安知よりも、人間が少し賢く生れてゐましたから、頭からねつけないで、金二駄ならば相談に乗つてもいいと答へたのです。
利休と遠州 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「僕にも近頃流行はやるまがい物の名前はわからない。贋物にせものには大正とか改良とかいう形容詞をつけて置けばいいんだろう。」と唖々子は常にさかずきなさない。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其の代り手前てめえを横須賀へ女郎にめて、己もそれだけ友達に顔向けの出来るようにしなければならねえ、覚悟しろ此の坊主ふてえ奴と、まア斯ういう訳になるのだ
自分も相当の好きらしく時々寺銭をっているそうなが、不思議な事にこの坊主を負かすと間もなく、御本堂がユサユサと家鳴やなり震動して天井から砂が降ったり、軒の瓦がすべったりする。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仙「わっちは通りがゝりのものだが、見兼たからなけ這入へえったのだ、よええ町人を斬るのるのと仰しゃるが、弱えものを助けるのが本当のお侍だ」
しきものを忘れゆくあさに夕なに。
忘春詩集:02 忘春詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
さてそれから、チェリーは室内をいまわって、魔薬まやくの入った煙草を探した。ついに煙草の隠匿いんとく場所がわかって、八本の特製のゴールデン・バットを手に入れた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
九月の四日に文治に拳骨でり倒されまして、目が覚めたようになってしきりにかせいで、此の長家ながやへ越して来たと見えて、夜具縞やぐじま褞袍どてらを着て、刷毛はけを下げまして帰って来まして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
例えていうならば、今日までの自分の心神や肉体という物は、ちょうど、りつめている厚氷のようなものであったと思う。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なほなほに」は、「直直なほなほに」で、素直に、尋常に、普通並にの意、「ふ葛の引かば依り来ねしたなほなほに」(巻十四・三三六四或本歌)の例でも、素直にの意である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
と云いながら側へ近寄ると、病人は重い掻巻かいまき退けて布団の上にちゃんと坐り志丈の顔をジッと見詰めている。
紙鳶挙ぐる子供の、風の神弱し、大風吹けよと、謡ふも心憎しなど、窓に倚りて想ひを碧潭へきたん孤舟こしゅうせ、眼に銀鱗の飛躍を夢み、寸時恍惚たり。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
彼女はるロンドンの下町から地下鉄やバスに乗って、此の男達に連られて来たのであった。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
姫が本国で和邇を族霊とし和邇の後胤と自信せる姫が子を産む時自ら和邇のごとく匍匐ったのであろう、言わば狐付きが狐の所作犬神付きが犬神の所作をし
上から上から這いかかり乗りかかる。怪我けがをする。血を流す。嘔吐く。気絶する。その上から踏みにじる。警官も役人も有志も芸妓げいしゃも有ったもんじゃない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
道は白々と広く、夜目には、芝草のって居るのすら見える。当麻路たぎまじである。一降ひとくだりして又、大降おおくだりにかかろうとする処が、中だるみに、ややひらたくなっていた。梢のとがったかえの木の森。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
みどり兒は怖々おづおづと、あちら向きつつ蟲を
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
月の光も山のくらくなれば、今はとて戸をてて入らんとするに、八五ただる、おぼろなる八六黒影かげろひの中に人ありて、八七風のまにまにるをあやしと見れば赤穴宗右衛門なり。
この弥次郎という青年は、いろいろな点から調べてみましても、どうも、そのっきりした身分とか身許とかが、分らぬのであります。明確なところが少いのであります。
炭団たどんの頭をって見な、まだ少しは火が有るだろう、泡ア喰ってまた川の中へポカリをきめちゃアいけねえよ、そんな事をするととまへふん縛るよ、いか、紛失なくなった物は出るような工夫をするから
なあに、武男さんはまだ帰って来ないから、相談も納得もありゃしないが、お浪さんがまた血をいたンだ。ところで御隠居ももうだめだ、武男が帰らんうちに断行するといっているそうだ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
家臣たちは、井戸水を揚げて、大きなたらいに水をった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹乘りの玉之助は、太夫元の權次郎と少し離れた裏口で立話をしてゐると、丁度騷ぎが起つたと言ふよ、——權次郎は毎日二度晝少し過ぎて、夜の興行がねる頃樣子を見に來るんだ
光治こうじ自分じぶんふえにつれて、小鳥ことりがいっしょになってさえずるのを自慢じまんにしていました。いま、少年しょうねんいた小鳥ことりは、かみうえからばたきをしてつのではないかとおもわれました。
どこで笛吹く (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、この女のすぐ後からげた黒い服を来た一人の男が随いて這入った。二人の女も互に顔見合せて吃驚したものだが、この男は二人を見て同じように吃驚した。
曾は家を没収せられ雲南軍にやられるということを聞かされて驚きおそれていると、やがて数十人の剣を帯びほこを操った武士が来て、そのまま内寝いまへ入って曾の衣冠をいで、妻といっしょに縛った。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
是れは何も馬が多助のかたきを取ったという訳ではございません、馬は鼻の先へ閃めくはものの光りに驚いてね出し、おえいを引倒し丹三郎を噛殺すような訳になるも天のにくしみで
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「女に喰いぐりはねえやな。お前が留守になりゃ、今度はもっと若い野郎が、上さんの食うから寝るまでいっさい世話するてえんだから、お前も安心してひき取んねえ。」
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
騎馬の兵士が大久保柏木かしわぎ小路こみちを隊をなしてせ廻るのは、はなは五月蠅うるさいものである。いな五月蠅いではないしゃくにさわる。
麻多智またち大いに怒りのこころを起し云々、せ逐いてすなわち山口に至り、つえ(杭)を標して堺の堀に置き夜刀神に告げていわく、これより以上は神の地たることをゆる
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すると荒削りの山の肌が、頂に近くひ松の暗い緑をなすつた所に、小さく一匹の獣が見えた。それが青猪と云ふ異名を負つた、日本アルプスに棲む羚羊かもしかであつた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
査大受は、勝に乗じて一挙に抜くべしと論ずる。先ず敵情如何と、査大受一軍をもって偵察に出かけた処が、州を過ぎた附近で、日本軍の斥候隊と遭遇した。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三ツ岳から南、国境の大尾根は幾重の雲がからみ合い重り合って、遠い空のてに銅色を帯びた雲の峰が強い日光に照り映えている。然し黒部の谷には一点の雲もない。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
英米えいべいせうすれば、靡然ひぜんとして英米えいべいはしり、獨國どくこく勢力せいりよくれば翕然きうぜんとして獨國どくこくき、佛國ふつこく優位いうゐむれば、倉皇さうこうとしてふつしたがふならば、わが獨立どくりつ體面たいめん何處いづこにありや。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
長日月ちょうじつげつ病床にしながら、公の身辺にべる者にさえ苦しき顔を見せなかったという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「オヽ、梅子」とお加女は顧み「お前さんはだおつに御目にかゝるんでしたネ、此方このかた阿父おとつさんの一方ならぬ御厚情にあづかる、海軍の松島様で——御不礼ごぶれい無い様に御挨拶ごあいさつを」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
貴樣あなたえらひとになるのだから、けつして病氣位びやうきぐらゐまけてはならん病氣びやうきかしてやらなければ』とつてぼくげましたことがあります。伸一先生しんいちせんせいけつして此意味このいみ舊式きうしきつたのではありません。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
けものが食えば野の草から、鳥がめば峰の花から、同じお稲の、同じ姿かたちとなって、一人ずつ世に生れて、また同一おなじ年、同一おなじ月日に、親兄弟、家眷親属、おのが身勝手な利慾りよくのために、恋をせかれ
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
犬烏あつまむ。天皇此のいざによぶ声を聞きて、心に悲傷いたみす。群卿にみことのりして曰く、それ生くるときにめぐみし所を以て亡者なきひとしたがはしむ。これ甚だいたきわざなり。それ古風といへども良からずば何ぞ従はむ。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
またかと、うるそうきこし召すやも知れませぬが、御先祖のことは、念仏申すよう、明けても暮れても、飯をむまも、お忘れあってはなりませぬ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草蔭の安努あぬな行かむとりし道阿努あぬは行かずて荒草立あらくさだちぬ (同・三四四七)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
篠田と老人とを乗せたる一りやうは、驀地まつしぐらひとせぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
落霞紅抹万松裙(落霞紅にく万松のもすそ
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この山と山との間にさまれた小さな町に
今度このたびはいうべき事もかねて用意して、じれッたそうに挿頭かんざしで髪をきながら、漸くのおもい間隙すきを見附け、「公債は今幾何いくらなの?」とくちばしさんでみれば、さて我ながら唐突千万! 無理では無いが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
じたりえぐったりぎ合わせたり編んだりした木工品がうずたかく積みあげてある。
ふ蟲の災
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
半纏はんてんいだあとで、ほゝかぶりをつて、ぶらりとげると、すぐに湯氣ゆげとともにしろかたまるこしあひだけて、一個いつこたちまち、ぶくりといた茶色ちやいろあたまつて、そしてばちや/\とねた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
落ち目に蹴落された長崎屋は、いて噛みつくに相違ないのだ。あれたちはこれまで、あらゆる慾の世界で、合体して働いて来た、狼同士、二人とも泥のはらわたについて知り抜いているのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こういう土地柄ですから、女がどんな労働をしているか、大凡おおよその想像はつきましょう。男を助けて外で甲斐々々かいがいしく働く時の風俗は、股引ももひき脚絆はばきで、盲目縞めくらじま手甲てっこうめます。かぶりものは編笠です。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
義満の金閣寺に真似て、銀閣を東山に建てたが、費用が足りなくて銀がれなかったなど、有名な話である。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一人の予言者で間に合わなければ、多くの中から、御意に召した箇所を選び出し、御意に召さぬ箇所は勝手に放擲して、ここに継ぎぎだらけの、自家用の啓示録を製造する。
デンマルクの狂公子を通じて沙翁さをうの歌ひたる如くに、我は天と地との間をひめぐる一痴漢なり、崇重そうちようなる儀容をなし、威厳ある容貌を備へ、く談じ、能く解し、能く泣き、能く笑ふも
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
上帝蛇をにくむの余りその四脚を去り、とこしえに地上をい行かしむと。
婦人はあわただしくね起きて、急に居住まいをつくろいながら
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
習ひもおさぬ徒歩かちの旅に、知らぬ山川をる/″\彷徨さまよひ給ふさへあるに、玉のふすま、錦のとこひまもる風も厭はれし昔にひき換へて、露にも堪へぬかゝる破屋あばらやに一夜の宿を願ひ給ふ御可憐いとしさよ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「新聞やラジオで発表されたドロシイ殺しの犯人の人相が、ホテリングさんにぴったり当てまる!」
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
大破壊によってひき起されるすさまじい騒音が、ものの半刻ばかり休みもなくつづいていたが、そのうちに木の枝でも𫝼ぜるような乾いた音とともに、えがらっぽい煙が胴ノ間に流れこんできた。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
慮外りよぐわいながら此のわたりのいほりに、近き頃さまへて都より來られし、俗名ぞくみやう齋藤時頼と名告なの年壯としわかき武士のおさずや』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
『して其人は何處いづこにおする』。『そは此處こゝより程とほからぬ往生院わうじやうゐんなづくる古き僧庵に』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それも今言いましたとおり、仕入れを誤ったのならばまだ気持の慰めようもございましたが、品物を廻した仲間内では、廻すや否や飛ぶようにけて
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
まあま、この秋にはけねえでも、年が明けて春にでもなりゃ、花曲輪町はなぐるわちょうあたりから買いに来んともかぎるめえ
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ここにさきつま一一九ふたつなきたからにめで給ふ一二〇おびあり。これ常にかせ給へとてあたふるを見れば、金銀きがねしろがねを飾りたる太刀たちの、一二一あやしきまできたうたる古代の物なりける。
守、此のぬすびとさぐとらふために、一六五助の君文室ふんや広之ひろゆき、大宮司のたちに来て、今もつぱらに此の事を一六六はかり給ふよしを聞きぬ。此の太刀一六七いかさまにも下司したづかさなどのくべき物にあらず。
白糸は猿轡さるぐつわはまされて、手取り足取り地上に推し伏せられつ。されども渠は絶えず身をもだえて、えさんとしたりしなり。にわかに渠らの力はゆるみぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜はますますけて、そらはいよいよ曇りぬ。湿りたる空気は重く沈みて、柳の葉末も動かざりき。歩むにつれて、足下あしもとくさむらより池にね込むかわずは、つぶてを打つがごとく水を鳴らせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今、日ぞ落つれ、夜れ。——
公孫樹 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そりゃあ、あんまり酷だよ。僕だってそれ程教育家を悪く思っていやしないが、人を鋳型にめてこしらえようとしているのが癖になっていて、だれをでもその鋳型に㟛めて見ようとするからね」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
芝居がねていったん茶屋へ引き上げる時、お延はそこでまた夫人に会う事を恐れた。しかし会ってもう少し突ッ込んで見たいような気もした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真実をかない態度とか、同情、愛というような私たち人間の感情を、古風な学問の範疇では道徳、倫理の枠に入れて考えて、科学とそういうものとは別々に云いもし、教えもしていた。
科学の精神を (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
女らしいぞと口の中で独語つぶやきながら、誰だ女嫌ひの親分の所へ今頃来るのは、さあ這入りな、とがらりと戸を引き退くれば、さんお世話、と軽い挨拶、提灯吹きして頭巾を脱ぎにかゝるは
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
物置の床をいで、暗い段々を下ると、中は石と材木で疊んだ道で、それを二三間行つたところにかしち果てた扉があつて、押し開けると中は四疊半ほどの黴臭かび臭い穴倉、一方の隅に寄せて
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
かれはそれをそつと大事だいじそばあつめた。茶碗ちやわんさらすべての陶磁器たうじき熱火ねつくわねてしまつて一つでもやくつものはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところが自分は志村を崇拝しない、今に見ろという意気ごみしきりとげんでいた。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ある家のじとみ(小窓)から鼠鳴ねずなきをして(浅草の六区や玉の井の女が鼠鳴きして客をよんだが、これは古代からのならわしである)
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一言のもとにねつけておしまいになり、可愛いい松吉の顔を見て下さらないばかりか、最後には脅迫だとて、花の父を警官の手にお渡しになりました。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「眼が廻る! ……動悸がする! オレ死にそうだ、どうも変だ! ……血が頭に流れる! ……アッ、アッ、き気を催して来た」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なんと、と殿樣とのさま片膝かたひざきつてたまへば、唯唯ははおそれながら、打槌うつつちはづれさふらふても、天眼鏡てんがんきやう淨玻璃じやうはりなり、ぢよをつとありて、のちならでは、殿との御手おんてがたし、とはゞからずこそまをしけれ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と云いさま、ガアッとたんの若侍の顔にき付けました故、流石さすがに勘弁強い若侍も、今は怒気どき一度にかおあらわれ
啄木鳥きつつきむくの木をつついている。四十雀しじゅうからが枝をくぐっている。閑古鳥が木の股でいている。そうして池には蛙がいる。おはぐろとんぼが舞っている。
畳まれた町 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此處では勿論人々は獨逸語をなすのである、が、それに關まはず佛蘭西語で話し掛けると、ちよつとためらふが、直ぐ佛蘭西語で返答をする。
山岳美観:02 山岳美観 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
夏麻なつそ引く海上潟うなかみがたの沖つ洲に鳥はすだけど君はおともせず」(巻七・一一七六)、「吾が門のもりむ百千鳥千鳥は来れど君ぞ来まさぬ」(巻十六・三八七二)というのがあって
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「彼が正直であったのが、皆は不平なのだ! 若し、一ヵ処でも掛け先を、ごまかしてでもいたら、どんなにしゃぐつもりだったのだ!」
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「あぶねえ。大谷川だいやがわまるなよ」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
拍子抜してもどれる貫一は、心私こころひそかにその臆測のいりほがなりしを媿ぢざるにもあらざれど、又これが為に、ただちに彼の濡衣ぬれぎぬ剥去はぎさるまでに釈然たる能はずして、好し
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此時天一坊の裝束しやうぞくには鼠琥珀ねずみこはく紅裏付こううらつきたる袷小袖あはせこそでの下には白無垢しろむくかさねて山吹色やまぶきいろ素絹そけんちやく紫斜子むらさきなゝこ指貫さしぬき蜀紅錦しよくこうにしき袈裟けさを掛け金作こがねづく鳥頭とりがしらの太刀をたいし手には金地の中啓ちうけいにぎ爪折傘つまをりがさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
アイじゃ可笑おかしいわ、ウンというンだわ、と教えられて、じゃ、ウンと言って、可笑おかしくなって、不覚つい笑い出す。此方が勘ちゃんに頭をられるより余程よッぽど面白い。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あと御伺おうかがいすると、あの場合ばあいみこと御難儀ごなんぎのがたのは、矢張やはりあの御神剣ごしんけんのおかげだったそうで、ゆるなかみことがその御鞘おんさやわれると同時どうじ
やあ火の玉の親分か、わけがある、打捨うっちゃっておいてくれ、と力を限り払いけんともが焦燥あせるを、栄螺さざえのごとき拳固げんこ鎮圧しずめ、ええ、じたばたすればり殺すぞ、馬鹿め。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
床の間の掛軸が、バラ/\と吹き捲られて、ね落ちると、ガタ/\と烈しい音がして、鴨居の額が落ちる、六曲の金屏風が吹き倒される。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そっと両手でさんで、往来のくぼみへ置いてやりましたが、蛙は疲れているのか、道ばたに呆んやりつくばったままでいますので、より江はひしゃくに水をんでぱさりと
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
寝台ベツドの上にいた蒲団を見ると真白まつしろである。うへへ掛けるものも真白まつしろである。それを半分はんぶはすぐつて、すその方があつく見える所を、ける様に、女は窓をにして腰を掛けた。足はゆかに届かない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おばさんがほとんどひとりで話し手になっていたが、無口なおじさんもときどきそれへ短い言葉をさんだ。……
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
寄席よせねて少時しばらくは街いつぱいになつて歩く汚れた服の労働者のむれに混つて帰つた。(一月十五日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
運慶は今太いまゆ一寸いっすんの高さに横へ彫り抜いて、鑿の歯をたてに返すや否やすに、上から槌をおろした。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夏八月の海のこととて、水も穩であり、殊にそんな湖水のやうな入江であつたので釣り糸の下の海草の搖ぐさままでもつきりとよく見えるのである。
雪をんな(二) (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
ここにその一言主の大神、手打ちてその捧物ささげものを受けたまひき。かれ天皇の還りいでます時、その大神、山のにいはみて、長谷の山口に送りまつりき。
その証拠には、日蔭にえた樹木が光線に逢ひたいばかりに、自然に幹が曲つて行つてゐるのをさへ私は見出したことがある。
樹木と空飛ぶ鳥 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
あたきの爺様の代に此店ここの先代という人にうまうま一杯められて——ああ口惜しい
ここにその國主こにきし一二かしこみてまをしてまをさく、「今よ後、天皇おほきみの命のまにまに、御馬甘みまかひとして、年のに船めて船腹さず、柂檝さをかぢ乾さず、天地のむた、退しぞきなく仕へまつらむ」
角から二軒目の店の二階にはぼんやり灯影が窓からさしていて、やっぱり世間の生活のとばっちりが橋の上にもねついているのを感じる。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ああ、腹がった」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胡座あぐらいた虚脛からすねみ出るのを気にしては、着物のすそでくるみくるみしゃべっている。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
そりゃ刃物け、棒切一本持たいでも、北海道釧路くしろの荒土をねた腕だで、このこぶし一つでな、どたまア胴へ滅込めりこまそうと、……ひょいと抱上げて、ドブンと川にめる事の造作ないも知ったれども
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いま気がついて、ムカムカとを催しても、彼の喰った栄螺は、もはや半ば以上消化され、胃壁を通じて濁った血となったのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あれに嫉妒しっとを加えたら、どうだろう。嫉妒では不安の感が多過ぎる。憎悪ぞうおはどうだろう。憎悪はげし過ぎる。いかり? 怒では全然調和を破る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然し、孫娘の光子にはそんな懸念は露程つゆほどもないと見え、朝から家を外にの、乳母子ねんねのようなしゃぎ方。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
室宇しつう宏麗くわうれい後房こうばう數百人すうひやくにん舞妓ぶぎみな綺紈きぐわんかざり、金翠きんすゐむ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いっそうそれより処士横議、自由に見させ自由にいわせ、自由に聞かせた方がいいではないか。遙かにその方が安全だ。け口を作ってやるのだからな。……ところでここはどこだろう?
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことわりしが父なる者の云るには今度むすめは江戸向の大家のよめのぞまれしがやまひ有ては相談も出來ねばふか押隱おしかく結納ゆひなふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
扨又春は即ち張るで有つて、木の芽も草の芽も皆張り膨らみて、萬物盡く内より外にり、水も四澤に滿つる程である。故に一年の中、春はおのづからにして人の氣も張るのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おや、山に十の字の焼印やきいんがあるね、これおれとこ沢庵樽たくあんだるぢやアないか。金「なんだか知れませぬが井戸端ゐどばたに水がつてあつたのをこぼしてもつましたが、ナニぢきに明けてお返しまうします。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
つよし、はげし、あまりにゆし
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
何時いつかはうたがれるだらう。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
監督は、質問の意味を飲み込むことができるとたと答えに窮したりした。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
定「ナニ寄る気でもないんですが、近いから、あのお寺の前を通ると曲角まがりかどのお寺だもんですから、よく門のとこなんぞをいてゝ、久振ひさしぶりだ、お寄りなてえから、ヘイてんでもと朋輩ほうばいだから寄りますね」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
幸助五六歳のころ妻の百合が里帰りして貰いきしその時りつけしまま十年ととせ余の月日ち今は薄墨うすずみ塗りしようなり、今宵こよいは風なく波音聞こえず。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、その意味は周囲の群衆が発する言葉で直ぐ判った。一度水面を離れかけた屍体が、鉤のずれたため、再び水中に落ちたからであった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
が、それでもたがいこえは、ひそやかにくさずれよりもひくかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
十禅師じゅうぜんじの辻で、人々が、戦のように騒ぎ合っているので、何事かと行ってみたら、綽空しゃっくうと玉日の前とが、この吉水へ参るとて、ひとくるまに乗り、町を、でやかに打たせてきたので凡下どもは激昂げっこう
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信濃路しなぬぢいま墾道はりみち刈株かりばねあしましむなくつ 〔巻十四・三三九九〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
たばとなってって吹き出して来て、こっちの部屋に押しひろがり木の葉や枝に蔽われているが、しかし、さすがに昼の光によって、明るく窓のように見えているところの
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かれ身體からだやつれを自分じぶんでもつた。かれこのねんあひだ持病ぢびやう僂麻質斯レウマチス執念しふねほね何處どこかをみつゝあるやうにかんじた。あつ季節きせつになればかならいきほひをひそめた持病ぢびやうかれわすれてらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一壁崩壞して、枯髏ころ殘骨の露呈せる處に、葡萄のひ來りて、半ばそを覆ひたるは、心ありてこの悲慘の景を見せじとするにやとさへ思はれたり。
まことこのみな聖人せいじんなるも、えきしてわたくのごとひくきことあたはず。すなは(一〇〇)能仕のうしづるところあらず。そう富人ふうじんあり、あめりてかきやぶる。
わたしことどもしたと
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
宗近君の車が、小野さんの下宿の前で、車輪おとを留めた時、小野さんはちょうど午飯ひるめしを済ましたばかりである。ぜんが出ている。飯櫃めしびつも引かれずにある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとえばその鬱勃としたものが、手軽に云えば髪形の上や服装の上などにけ口が出来できているでしょう。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
成る限り大切だいじを取って極々の内密ないないに、しかも出来るだけよう下手人を探し出せと言う大目付からの御内達で、お係りのお目付、松倉十内どんも往生、垂れ冠って御座る。
その隙に、藤岡は、足音を立てぬやうに、次の窓にひ寄つた。すると、銃先は、正確に、彼の移動する線に添つて、なめらかに、左から右へ廻転した。
髪の毛と花びら (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
其後姿を見送つた目を、其処に置いて行つた手紙の上に移して、智恵子はじつと呼吸をこらした。神から授つた義務をたした様な満足の情が胸に溢れた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
味噌をかったり、それでも手のすいているときは、炭の粉でせっせと炭団を丸めたりした。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
川幅かわはばはあまり広くない。底は浅い。流れはゆるやかである。ふなばたって、水の上をすべって、どこまで行くか、春が尽きて、人が騒いで、ち合せをしたがるところまで行かねばやまぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれは何でもこれは福の神に違いないと思っていて行って見ると、この街の真中の四辻に来て神様は、地面じべたの上を指してそのまま消えてしまった。見るとそこには金剛石ダイヤモンドめた金の指環ゆびわが……
正夢 (新字新仮名) / 夢野久作萠円(著)
ここには煩わしきをはばかって言えぬが大要今日の鶴嘴つるはし様に曲ってその中央に柄が付いた鋤を佐比と言い、そのごとく曲った刀を鋤鈎さひちというたとおもう、中古にも紀朝臣佐比物さひもち
さけ其處そこてんじた。にはの四ほん青竹あをだけつたなはあかあをきざんだ注連しめがひら/\とうごきながら老人等としよりらひとつに私語さゝやくやうにえた。陽氣やうきにはへ一ぱいあたゝかなひかりなげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
べて鳥の身体からだは五つに載り別けるのが法です。大きい鳥でも小さい鳥でも法則の通り五つに別けて行けば極く楽に肉や骨がなれますけれども一つ法にはずれると肉が骨へついて始末になりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
大抵はげた頭の後の方に、黄茶色の細い毛が少しばかり並んで居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)