“さ”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
いかにも感慨無量で折角飲んだ酒もめて来るが、暫くするとまた飲みたくなりゃこそ酒屋が渡世が出来る理窟故ますます感心する。
それを吹きはじめると、いよいよゆうべ聞いた金伽羅童子のえた笛の音が、そのまま、この笛に乗り移ったかと思われるほどです。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なかいたやうな……藤紫ふじむらさきに、浅黄あさぎ群青ぐんじやうで、小菊こぎく撫子なでしこやさしくめた友染いうぜんふくろいて、ぎんなべを、そのはきら/\とつてた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
家人たちが、銘々酔顔をげて駆け集ったとき、つい先頃奉公に上ったばかりの召使いのおとよという女が、半身に血を浴びながら
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
宝石商ほうせきしょうは、それから幾日いくにちたびをしました。やまえ、かわわたり、あるときはふねり、そして、みなみくにして、たびをつづけました。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さてけものはまへにもいへるごとく、初雪しよせつを見て山つたひに雪浅き国へる、しかれども行后ゆきおくれて雪になやむもあればこれをる事あり。
わざと、しょくともさずにある。すすきの穂の影が、縁や、そこここにうごいている。ひさしからし入る月は燈火ともしびよりは遥かに明るかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銭塘せんとう杜子恭としきょうは秘術を知っていた。かつて或る人から瓜をく刀を借りたので、その持ち主が返してくれと催促すると、彼は答えた。
くはかついで遺跡ゐせきさぐりにあるき、貝塚かひづかどろだらけにつてり、その掘出ほりだしたる土器どき破片はへん背負せおひ、うしていへかへつて井戸端ゐどばたあらふ。
そうしてさらにまたある一団は、縦横に青空をいている薔薇の枝と枝との間へ、早くも眼には見えないほど、細い糸を張り始めた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
としちゃんは、はしっていって、どこからか米俵こめだわらいたのをげてきました。はらててあったとみえて、たわらしもでぬれていました。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「大分前から金具がびてゐて、開け立てに齒の浮くやうな音を立てましたが、二三日此方不思議にそんな音が聞えなくなりました」
其うち善兵衛が娘の部屋を調べると、机の抽出から戦慄せんりつすべき脅迫状が現れた。白の封筒に白い書簡箋レターペーパーの意味が書かれてあった。
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
ほんとうに目をましていたわけではなく、友愛塾というところは一風変わった指導をやるところだぐらいにしか考えていなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私がこの日頃そこに近寄るのを努めてけるようにしていた、私のむかしの女友達の別荘べっそうの前を通らなければならないことを認めたのだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そういいながら、その若い男は、ぼくを穴の中へんだ。私はこの意外な出来事に、夢かとばかりおどろき、そして胸を躍らせた。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうするとその矢は、若日子がちょうど下界であおむきにていた胸のまん中を、ぷすりと突きして一ぺんで殺してしまいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そのうちに東の空はほのぼのと明け渡って、向うの庭の枯れ木立の間から眩しいの光りが、このへやの中へ一パイにし込みました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ひだりれたところに応接室おうせつしつ喫煙室きつえんしつかといふやうな部屋へやまどすこしあいてゐて人影ひとかげしてゐたが、そこをぎると玄関げんかんがあつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
火を吐くような言葉を、男の顔にあびせると、お豊は百年の恋もめ果てたように、クルリと背を向けて、欄干の上に顔を伏せました。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そしてなお、月の彼方を、めつけていたが、ようやく、眸のほのおめてくると、眼はおのずから、自分の姿と足もとへ戻って来る。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども彼は落葉だけ明るい、ものびた境内けいだいけまわりながら、ありありと硝煙のにおいを感じ、飛び違う砲火のひらめきを感じた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ソレは乗らぬことにして、その少しきに下駄屋が見えるから、下駄屋へよって下駄一足に傘一本かって両方で二しゅ余り、三朱出ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「きゃっ‼」叫んで理学士、二歩うしろへ退がったが「赦して下さい兄さん、あなたを殺したのは悪かった。赦して下さい‼」
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
毒をしたところだけ、きれいにさきてて、毒のない部分をさんざん食いあらしていたのです。一ぷくろうたってあいつにゃ駄目だめです。
「さう言つたつて、これでものみしたあとよりはでかいでせう。——一體そんなことを言ふ親分こそ身體を汚したことがありますかい」
ちょうど生きた人魂ひとだまだね。て門を這入ってみると北風ほくふう枯梢こしょう悲断ひだんして寒庭かんていなげうち、柱傾き瓦落ちて流熒りゅうけいいたむという、散々な有様だ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一陣の北風にと音していっせいに南になびくこと、はるかあなたにぬっくと立てる電燈局の煙筒より一縷いちるの煙の立ちのぼること等
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは或雑誌のだつた。が、一羽の雄鶏の墨画すみゑは著しい個性を示してゐた。彼は或友だちにこの画家のことを尋ねたりした。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
緑雨りよくうは巧に現社界の魔毒を写出しやしゆつせり。世々良伯せゝらはくは少しく不自然の傾きを示すといへども、今日の社界をる事甚だ遠しとは言ふ可らず。
男は自分ひとりのような顔をしていて、裏にうらのある、そんな稼業かぎょうのものの真唯中まっただなかに飛んだ恥をらすようなことがあってはならぬ。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
紋着もんつきしろえりで盛裝せいさうした、えんなのが、ちやわんとはしを兩手りやうてつて、めるやうにあらはれて、すぐに一切ひときれはさんだのが、そのひとさ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あなたの大きくみひらいた眼には、果てなき大空の藍色と見渡す草原の緑とが映り紅をしたほおには日の光と微風そよかぜとが知られた。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
太子問ひたまふ所の義、師(慧慈ゑじ)も通ぜざる所有り。太子夜の夢に金人のきたりて不解義を教ふるを見たまふ。太子めて後即ちこれ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
と節子はすこし顔をあかめた。彼女は何事も思うに任せぬという風で、手にした女持の洋傘のすこし色のせたのをひろげてした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
玄竹げんちくてこすりのやうなことをつて、らにはげしく死體したいうごかした。三にん武士ぶしは、『ひやア。』とさけんで、またした。——
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
婦女をんなの身としては他人よその見る眼も羞づかしけれど、何にも彼も貧がする不如意に是非のなく、今ま縫ふ猪之が綿入れも洗ひ曝した松坂縞
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
れを無理につかまへて、ねだつては話してもらひましたが、うるさかつたらうと思つて、今考へると気の毒です。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そういいながら葉子は少し気にえたらしく、炭取りを引き寄せて火鉢ひばちに火をつぎ足した。桜炭の火花が激しく飛んで二人ふたりの間にはじけた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さや、夜鳥も啼かず、藪かげのとなりの寺もしんしんと雨戸したれ。時として川瀬のおとの浪のと響き添ふのみ。それもただ遠し、気疎けうとし。
と凹凸なく瞰下みおろさるる、かかる一枚の絵の中に、もすその端さえ、片袖かたそでさえ、美しき夫人の姿を、何処いずこに隠すべくも見えなかった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「雑巾々々。」と宙に躍って、蹴返けかえもすそねた脚は、ここにした魔の使つかいが、鴨居かもいを抜けて出るように見えた。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は四郎の屍体の口腔こうくうを開かせ、その中に手をグッとさし入れると咽喉の方までぐってみたのが、果然かぜん手懸てがかりがあって、耳飾の宝石が出てきた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
少女はびたる針金の先きを捩ぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には咳枯しはがれたる老媼おうなの聲して、「ぞ」と問ふ。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
謝名城ジナグスク大宜味オホギミ村)の海神祭ウンジヤミのおもろには「ねらやじゆ〔潮〕すい、みなと〔湊〕じゆミチゆい……」とあつて、沖あひの事をすらしい。
琉球の宗教 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
更に薏苡と題する詩の中には、「草木各〻よろしきあり、珍産南荒にならぶ。絳嚢茘枝をけ、雪粉桄榔をく」といふ句がある。
源太郎はされた酒の黄色いのを、しツぽく台の上に一寸見たなりで、無器用な煙草を止めずにゐた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
玄宗の夢にあらわれた鍾馗のいてくらった鬼は、その耗であるのと例の考証をやってから、その筆は「四方よもの赤」に走って
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
別れにした盃を、清葉が、ちっと仰向くように、天井に目をふさいで飲んだ時、世間がもう三分間、もの音を立てないで、死んでいて欲しかった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
曾て帰省した時の服装を見ると、地方では奏任官には大丈夫踏める素晴しい服装なりで、なにしても金の時計をぶらげていたと云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一段高い岩の上に「虎狼の宮」の古風の社殿がおごそかに立っているばかりで、木立さえないらしの境内には犬の子一匹いないのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ガラス瓶にした睡蓮の花はそのほそい、長い茎の上に首を傾けて上品に薫っている。その直後にデカルトの石膏像が立ってる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その当時の事だから、祖父おじいさんも腰に刀をしていたので、突然いきなりにひらりと引抜ひきぬいて、背後うしろから「待てッ」と声をかけた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
て、うなると、この教育けういくのあるむすめが、なにしろ恰好かつかうわるい、第一だいいちまたちやうがわるい、まへ𢌞まはしてひざつてなほせといふ。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
書院の障子いちめんにその月光が青白くさんさんとふりそそいで、ぞおっと襟首えりくび立つような夜だった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
つれて參りますと主個あるじに言てにはかの支度辨當べんたうつゝ吹筒すゐづつげ和吉を呼で今日は吾儕わしが花見に行なれば辨當を脊負しよひともをしてと言ば和吉はかうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うやうやしくあたまげているわたくしみみには、やがて神様かみさま御声おこえ凛々りんりんひびいてまいりました。それは大体だいたいのような意味いみのお訓示さとしでございました。
「やい亀井、何しおる? 何ぢや、懸賞小説ぢや——ふッふッ、」とも馬鹿にしたやうに冷笑せゝらわらつたはズングリと肥つた二十四五のひげ毿くしや々の書生で
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「戸締りをした形跡がない。引っかけの輪金わがねがボロボロにびている。東作は毎晩、戸締りをしないで寝ていたものですね」
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
謠へば面白いのだが、お秋さんにはてもそんなことをせて見ようつて出來ないから駄目だ。それどころではない。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今はじめて、しかも戸をしてひそかにまなぶということです、しかもその戸は、おのれ自身の心にもあるのですから、自分の心の一部にさえ戸をさなければならない
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、涙は喉につかえて、闇の樹立に注がれている眼は、えかえるばかりであつた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
蝙也はちょっと眉を曇らせたが、べつに何も云わず、食事の支度を命じて軽く済ますと、納戸から拳大の鉛の塊を取出してきて布に包み、中脇差だけして
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
破三味線やれさみせんを膝の横へ置いて、所在なげにいとを指ですり、幽かな音色をたてながら、お吉はじっと俯向いていたが
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わしは別にねたみ心からそう言ったのではない。あの様な小僧を相手にするでもないが、態度が憎々しく非礼だったのが気にわったというまでだ。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
妻は乳児をすててり、昨年は病魔におかされ、本年は天災にかかり、一家挙げて飢えに泣き渇を訴うるがごとき徒に至りては、なにによりて安心の一道を営みましょうか。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
さいはひに一ぱいみて歇息やすませ給へとて、酒をあたため、下物さかなつらねてすすむるに、赤穴九一袖をもておもておほひ、其のにほひをくるに似たり。左門いふ。
それに、お姉さんを、心ではっちもっちもないほど、好きんなっていながら、いつまでも穏便主義でやろうなんて、ムリだわ。ムリというよりも、意気地がないわ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
天柱け地維欠くとも言うべき一大凶変が突如として起り、首都東京を中心に、横浜、横須賀の隣接都市をはじめ、武相豆房総、数箇国の町村に跨がって
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三芝居もどんなものだか、まつの若衆人形の落ちこぼれが、奥山おくやまあたりに出没しているとのことだが、それも気が進まない。活人形いきにんぎょうも見てしまった。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四季袋しきぶくろ紐短ひもみじかにげたるが、此方こなたを見向ける素顔の色あをく、口のべにさで、やや裏寂うらさびしくも花の咲過ぎたらんやうの蕭衰やつれを帯びたれど、美目のへんたる色香いろか尚濃なほこまやかにして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「まア一つおあがりやへえな。」と、女中は盃洗の底に沈んでゐた杯を取り上げ、水を切つて、先づ源太郎にした。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
昨春以来癪にえつつ筆執る暇を得なかった円本ブッタタ記、これを思うままに草し了った時の胸のスガ/\しさ、近来にない快感であり満足であった
しかるに〈古はすなわち鶏を磔す、今はすなわち殺さず、また、正月一日、鶏鳴きて起き、まず庭前において爆竹し、以て山臊さんそう悪鬼をく云々。
いつの時代ときよなりけん。紀の国三輪が崎に、大宅おほやの竹助といふ人在りけり。此の人海のさちありて、海郎あまどもあまた養ひ、はたひろき物をつくしてすなどり、家豊かに暮しける。
人種の気象は風土と相伴ふさうだが、我々犬族も多分うらしいのは日本人と日本犬と何から何までが能く似ておる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
をもって中央にて三に結成し、その上に飯櫃めしびつふたを載せ、三人各三方より相向かいて座し、おのおの隻手あるいは両手をもって櫃の蓋を緩くおさえ
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
闇太郎は事もなげに、例の顎をでに、撫で上げながら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
黄生うちゑみて『きに実を告げざりしとがめにやあらむ、うべなり、この厄に遇はむとはしたる。今や卿を知り得たり。卿もし疎くもてなさば艾もてくゆらしやらむ』
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
力なき日はいつしか光り薄れて時雨空の雲の往来ゆきき定めなく、後山こうざん晴るゝと見れば前山忽まちに曇り、嵐にられ霧にへられて、九折つゞらなるそばを伝ひ、過ぎ来し方さへ失ふ頃
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あめつゝちとりましとゝ 何故など ける 利目とめ
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
がしているからその人をもらいたいと思うが一応御両親にもその人をお目にかけて御許しを受けたいについてどうぞ父上様と母上様とで御出京を願いたい
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しそのすがしさはかぎりなしほほ木高こだかく白き花群はなむら
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と清之介君が言いした時、女中が後片附けの都合で又顔を出した。それを好いことにして妙子さんは
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夜深うしてこうを行ふ彼何の情ぞ 黒闇々中刀に声あり 圏套けんとう姦婦の計を逃れ難し 拘囚こうしゆう未だ侠夫の名を損ぜず 対牛たいぎゆう楼上無状をす 司馬しば浜前はままえに不平を洩らす 豈だ路傍狗鼠くそ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
足の踏所ふみど覚束無おぼつかなげに酔ひて、帽は落ちなんばかりに打傾うちかたむき、ハンカチイフにつつみたる折を左にげて、山車だし人形のやうに揺々ゆらゆらと立てるは貫一なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これに代ってきに支那から我邦に渡来した『植物学』の書(多分我が万延、文久、元治年間に渡ったものであろう)
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
如何どうしました、如何しました』とけんだ僕の声を聞いて母はわずかに座り直し
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私は靴きで、その棒切れを押してみました。なんの戦慄もなく、もちろんひとつもこわくはなく、むしろ、私はやっと真の自分を取り戻したような安定をおぼえました。
恐怖の正体 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
あまりに上品とはいえないが私のような胃病患者から見るとなんとそれはち多過ぎる人であるかと思ってうらやましき次第とも見えるのだ、全く何も食えずにいる時、沢庵たくあんと茶漬けの音を聞く事は
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あゆめばたにのわらびの
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
全存在が空虚のうちに沈み込んでゆく様……そして忌わしい臨終のあえぎ、水面でけるあわにも似たその機械的な呼吸、魂がもはやなくなっても、なお頑固に生きんとつとめる肉体の最後の息吹いぶき。
子貢曰く、詩に云う、せつするが如く、するが如く、たくするが如く、するが如しとは、其れれを之れ謂うかと。子曰く、や、始めてともに詩を言うべきのみ。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
野分のわき立った朝、尼はその女のもとに菓子などを持って来ながら、いつものように色のめた衣をかついだ女を前にして、何か慰めるように
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
番茶の酒盛——“おか盛”がはじまったい。発案者たる大家さんはひとりで気分を出して悦に入るが、長屋の衆はアルコール分がないから滅入るばかりだ。
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ところもの其人そのひとほねみなすでちたり、ひと其言そのげんのみ君子くんしは、其時そのときればすなは(二)し、其時そのときざればすなは(三)蓬累ほうるゐしてる。
「穴だよ。——あらがねほうり込んで、まとめて下へげる穴だ。鉱といっしょに抛り込まれて見ねえ……」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西陽をけるための日除けも汚点だらけで、壁にも処々地図のような雨漏りの跡があります。壁に寄った隅の方のベッドには死人が後向きに寝かせてありました。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
風の日も雨の日もいとうことなく、住居をる十町ばかりの築土八幡宮つくどはちまんぐう参詣さんけいして、愛児の病気を救わせ給えといのり、平生へいぜいたしなめる食物娯楽をさえにちたるに、それがためとにはあらざるべけれど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
砕けた源太が談話はなしぶりさばけたお吉が接待とりなしぶりにいつしか遠慮も打ち忘れ、されていなまず受けてはつと酒盞さかずきの数重ぬるままに、平常つねから可愛らしきあから顔を一層みずみずと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾子わこよ。吾子のおおせなんだあらび心で、吾子よりももっと、わるいたけび心を持った者の、大和に来向うのを、待ち押え、え防いで居ろ、と仰せられた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その鶏を五つ位にいて五合の水で玉葱四つを加えて塩味をつけて一時間湯煮ゆでます。最初沸立にたつ時アクの浮くのをすくい取らなければなりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
うしてちひさな子供等こどもたちあつめて、これらの不思議ふしぎ世界せかいゆめ面白おもしろはなしをしたなら、自分じぶんなつ想出おもひで如何いかばかり、おほくの子供こどもよろこばすことだらうかとおも
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私は柄杓ひしゃくで水を浴せ掛ると、鶩は噂好うわさずきなお婆さんぶって、泥の中を蹣跚よろよろしながら鳴いて逃げて行きました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
の國は廣くと
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
その種子たねはなけるに似たり。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
その、張り切った気合を受けて、弾き返した瞬間、小太郎は、柳の木蔭へ、けていた。何う斬って、何う引いたか——月丸は、刀を元の如く下段につけて、静まり返っていた。小太郎は
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
離縁られた人か、死ぬ人か
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きの『隅田川』の狂女の句と同じように、こういう歴史的の句を作るという事もまた作者の一技倆ぎりょうではあるが、しかし下手へたにやると見られぬものになってしまう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
上目瞼は薄黒い皺のまま大きな眼球の上に高まって、鼻柱と頬骨との間の眼下の筋肉の著しいたるみは、丁度、色のせ切った青蚊帳あおがやの古い端片れをげた様に見えた。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
禰宜 いや何とも……このごろ晩、ふけふけに、この方角……あの森の奥に当って、化鳥けちょうの叫ぶような声がしまするで、話に聞く、咒詛のろいの釘かとも思いました。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして打ち解けて見ると彼は上品な、どこまでも純粋な、そしてかしい青年だった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あにいわんや旬朔じゅんさくをや、なんじ汝の家に還らば事古儀に合わんと、妃曰くわれ穢虫わいちゅうの窟にありといえども蓮の淤泥おでいに居るがごとしわれ言信あれば地それけんと、げんおわりて地裂く、曰くわが信現ぜりと
細君は後ろに𢌞つて背中をする。十風は其手を拂ひ除けようとしたが力が足らぬ。瘠せた大きな頭を枕から落して敷蒲團に顏を埋めるやうにして咳く。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
家の内を隈無くまなく尋ぬれども在らず、さては今にも何処いづこよりか帰来かへりこんと待てど暮せど、姿をくらませし貫一は、我家ながらも身をるる所無き苦紛くるしまぎれに、裏庭の木戸よりかささで忍び出でけるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
果たして、ぐわあん! と谷間のけるような音が渓流の向う側からとどろいた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「妾すこしすりましょう」浜路正直にも寄って来た。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
へい、辻の橋の玄徳稲荷げんとくいなり様は、御身分柄、こんな悪戯いたずらはなさりません。狸かかわうそでござりましょう。迷児の迷児の、——とかねたたいて来やがって饂飩を八杯らいました……お前さん。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝なななくきぎすはも
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
不愉快ふゆくわい人車じんしやられてびしい溪間たにまおくとゞけられることは、すこぶ苦痛くつうであつたが、今更いまさら引返ひきかへすこと出來できず、其日そのひ午後ごゝ時頃じごろ此宿このやどいた。突然とつぜんのことであるから宿やど主人あるじおどろかした。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いよいよおどろいて、全軍われがちに、谷の奥へなだれ打ってゆくと、轟然ごうぜん大地がけた。烈火と爆煙にはねとばされた蛮兵の手脚は、土砂と共に宙天の塵となっていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわてて駆け出したガラッ八の足許へ、その軽率をとがめるように、カラリと落ちたのは、その頃の下町娘が好んでした、つまみ細工ざいくの美しいくしではありませんか。
おおわれても透明なカーテンだから、女人雲のなまめかしい姿は、緋色ひいろに隔てられたように、ありありと見えている。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、びたが力ある声して言つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「仲間の者の義理堅さ、青天井の下に援け合う暮しの晴々しさは、権謀ときっに浮身をやつす、大名高家とは雲泥の違いで御座るぞ。ここには不義もなく不信もなく奸臣も無く、暴君も無い——」
そう言い、孔の一つびとつに針金をしながら、器用な手つきで古い埃をほじくり出した。丹塗にぬりの笛の胴にはいってから密着くっついたのか、滑らかな手擦れでみがかれた光沢があった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
平生へいぜいは一ぽんきりしてゐないけれども、二本帶ほんさしてある資格しかくつてゐて、與力よりき京武士みやこぶしあとまはらなくてもいいだけの地位ちゐになつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
羽二重はぶたへ小袖羽織こそでばおり茶宇ちやうはかま、それはまだおどろくにりないとして、細身ほそみ大小だいせうは、こしらへだけに四百兩ひやくりやうからもかけたのをしてゐた。こじりめたあつ黄金きん燦然さんぜんとして、ふゆかゞやいた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
君も今から廃刀と決心して、いよ/\飾りにさなければならんと云うなら、小刀でも何でもよろしいと云て、大きに論じた事がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その時私は脇差わきざしを一本して居たから、追付おいつかるようになれば後向うしろむいすすんるよりほか仕方しかたがない。きっては誠に不味まずい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「座敷の花魁は遅うございますことね。ちょいと見て参りますよ」と、お梅は次の間で鉄瓶に水をす音をさせて出て行ッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
酒のない猪口ちょくが幾たび飲まれるものでもなく、食いたくもない下物さかなむしッたり、煮えつく楽鍋たのしみなべ杯泉はいせんの水をしたり、三つ葉をはさんで見たり、いろいろに自分を持ち扱いながら
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
布をす事のみ念じて宅へ入る刹那せつな、自家の飼牛がえる、水を欲しいと見える、布を量る前に水を遣らんと水を汲んで桶からふねに移すに、幾時経っても、桶一つの水が尽きず
伏羲嬉しさの余り、その婦に汝が朝手初めに懸った業は、くれまで続くべしと祝うて去った。貧婦帰ってまず布をし始めると、夕まで布尽きず、跡から跡から出続いたので、たちまち大富となった。
しかし実際顔と顔とを向かい合わせると、二人ふたりは妙に会話さえはずまなくなるのだった。そのかしいのがいやだった。柔和なのが気にさわった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
黒い髪の毛をぴったりときれいに分けて、かしい中高なかだか細面ほそおもてに、健康らしいばら色を帯びた容貌ようぼうや、甘すぎるくらい人情におぼれやすい殉情的な性格は、葉子に一種のなつかしさをさえ感ぜしめた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人に指点す指の、ほっそりと爪先つまさきに肉を落すとき、明かなる感じは次第に爪先に集まって焼点しょうてん構成かたちづくる。藤尾ふじおの指は爪先のべにを抜け出でて縫針のがれるに終る。見るものの眼は一度に痛い。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
物足らぬとは指点す指の短かきに過ぐる場合を云う。足り余るとは指点す指の長きに失する時であろう。糸子は五指を同時に並べたような女である。足るとも云えぬ。足り余るとも評されぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風のさき黄なるカンナの群落ぐんらくに舟しかへす今はまぶしみ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夏堀なつぼりせば水曲みわたの葦むらはたださわさわし小舟しつつ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
えがいた当人も自然界の局部が再現したものとは認めておらん、ただ感興のした刻下の心持ちを幾分でも伝えて、多少の生命を惝怳しょうきょうしがたきムードに与うれば大成功と心得ている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西宮がした猪口に満々なみなみと受けて、吉里は考えている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
雛鶏ひなどり家鴨あひると羊肉の団子だんごとをしたぐし三本がしきりにかやされていて、のどかに燃ゆる火鉢ひばちからは、あぶり肉のうまそうなかお
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
その人寤め往きてこれを取らば、蛇たちまち見えなくなると(一九一五年版エントホヴェンの『コンカン民俗記フォークロール・ノーツ』七六頁)。
「だつて、堪るも堪らないもないぢやないか。地主様のつしやる事、誰が苦情を申立てられよう!」と、ほかの声が答へた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
一丁ばかりた。又橋がある。一尺に足らない古板ふるいたを造なく渡した上を、三四郎は大またあるいた。女もつゞいて通つた。待ち合せた三四郎のには、女の足がつねの大地を踏むと同じ様に軽く見えた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
当然そこから入って来るかさの像が直立してしまって否でも次の障子にその黒頭の笄が似た形が、映らなくてはならないでは御座いませんか。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
う言やマア、さうですがね、しかしくまア、軍人などで芸妓げいしや落籍ひかせるの、妾にするのツて、お金があつたもンですねエ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
孝「へい、良石和尚が申した通り、わたくしの身の上はつるぎの上を渡る様なもので、進むに利あり退くにあらずと申しまして、良石和尚の言葉といさゝか違いはござりません」
注に騾もし姙めば、母子ともに死すとある(『大明三蔵法数』一九)。『爾雅翼』に、騾のまた瑣骨さこつありて離れ開かず、故に子を産む能わず。『史記』の注に、駃騠は、その母の腹をいて生まる。
秋もけ、十月も半ばをすぎると、相模の山々の漆やぬるでに朱がし、月のない夜闇がひとしお色濃く感じられるようになった。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そんな下らない小説にページをくのだったら、もう雑誌の購読は止めちまうぞ」とか
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
而今かくのごとし、また用ゆるところなし、すなわち刃を堂礎にし以てこれを折る。
それが桶屋おけやとか杉の皮をく者とかと対談している際に、不意に手がすべって杉の皮なり竹の輪の端が強く相手を打つと、人間という者は思わぬことをするから油断がならぬといって
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
紫羅傘いちはつだよ、この山にはたくさんく。それ、一面に。」
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、かれらは、一ながねむりからびさまされたように、感心かんしんしたのでありました。
春がくる前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
といふ考が段々發展して、きに考へた道徳的負擔から逃れる爲めといふよりも、樂な心持を與へた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
モンタギュー長者ちゃうじゃ白刃しらはげ、そのつまモンタギュー夫人ふじんそれをとゞめつゝ、る。
「戦争に全勝せよ、れど我等は益々くるしまん」との微風の如き私語さゝやきを聴く、去れば九州炭山坑夫が昨秋来増賃請求の同盟沙汰伝はりてより、同一の境遇に同一の利害を感ずる各種の労働者協同して
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いま松野まつのてゝ竹村たけむらきみまれれにまれ、开所そこだめなばあはれや雪三せつざうきやうすべし、わが幸福かうふくもとむるとて可惜あたら忠義ちうぎ嗤笑ものわらひにさせるゝことかは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
江戸開城かいじょうの後、予は骸骨がいこつい、しばらく先生とたもとわかち、あと武州ぶしゅう府中ふちゅうの辺にけ居るに、先生は間断かんだんなく慰問いもんせられたり。
蛇はみんな非常に軟かいけ目のある、黒い線を唇の間から非常に速く飛び出さしてゐる。それは、蛇がいろんな目的の為めに持つてゐる武器だ。
小人しょうじん……小人の浅慮あさはかさ。……仰せのように、いつしか、思いあがっておりました。……その紋太夫の心に乗じて、おそらく魔などがしたものにござりましょう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうして過して居るか知らんと思うと私は寝て居る中にも涙が出てはらわたを断ちかるるの思いがある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
殊に科学者はておき哲学者といふ奴は多くは先哲の蓄音器である。少し毛色が違つたかと思つて能く/\聞くと妄想組織が脳に生じたのを白状してゐるざまだ。今の学者は例へば競売せりうり屋だ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
代助は斯う云つて、あによめ縫子ぬひこ蝙蝠傘かはほりがさげて一足ひとあし先へ玄関へた。車はそこに三挺ならんでゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
猟犬いぬどもが外へ出られると思ってむやみと脚へ打突ぶっつかって来るのを、彼は靴で蹴かえしながら、突然ヤッといって屍体を頭上に高くしあげたと思うと
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
逃げかくれる気持も分るが、それをいま一度うようになるのもけられぬ女の心だった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
よ、巨浪なみいかりててんき。 黒雲こくうんひくうみる。
弓矢を持って居るもあれば鉄砲ばかりを持って行く兵士もある。でよろいかぶとの上にはいずれも一人一本ずつ銘々めいめい色変りの小旗をしてごく綺麗きれいな装束です。むしろ戦場に臨んで戦争をやるというよりは
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
只管ひたすら走りて大通りに出でこゝにて又馬車に飛乗りゼルサレム街にる警察本署をしていそがせたり目科は馬車の中にても心一方ひとかたならず騒ぐと見え
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
おのおのその手に在るを抜きて、男は実印用のを女の指に、女はダイアモンド入のを男の指に、をはりてもなほ離れかねつつ、物は得言はでゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
後に負へる松杉の緑はうららかれたる空をしてそのいただきあたりてものうげにかかれる雲はねむるに似たり。そよとの風もあらぬに花はしきりに散りぬ。散る時にかろく舞ふをうぐひすは争ひて歌へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
はたまた風馬牛に遇せらるるか、いわゆる知らぬは亭主ばかりでそれは私のとり得ん所だが、私は今この書を世に公にするからには成るべく一般に読んで頂きたいと悃願こんがんする。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しかばねを原頭にらさゞるの故を以て、国民的ならずと罵るものあらば、吾人は其の愚を笑はずんばあらざるなり。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
眞暗闇の廣漠々とした平原に雨がザアーと音をさして降つてゐるその中を提灯もつけずに歩くのは、勝には、然し、矢張り氣持よくなかつた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
彼が抱へとなりしより、早や二年ふたとせなれば、事なく我等を助けんと思ひしに、人の憂に附けこみて、身勝手なるいひ掛けせんとは。我を救ひ玉へ、君。金をば薄き給金をきて還し参らせん。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
きのふは少し用があつて、京の町までまゐりますと、六條の河原にあなたと同じやうな首がらされて居りましたよ。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はまなじりきて寒慄かんりつせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
微曇ほのぐもりし空はこれが為にねむりさまされたる気色けしきにて、銀梨子地ぎんなしぢの如く無数の星をあらはして、鋭くえたる光は寒気かんきはなつかとおもはしむるまでに、その薄明うすあかりさらさるる夜のちまたほとんど氷らんとすなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ややもすれば上に偶語ぐうごし、剣をあんじてその君主に迫らんとしたる勇夫健卒も、何時いつの間にやら君臣の大義に支配せられ、従順なる良臣となりおわれり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
で取りかゝりからもう熱がめる、きようが無くなる、しんから嫌氣いやけして了ツた。然うなると、幾ら努力したと謂ツて、あがいたと謂ツて、何のやくにも立ちはしない。で、たゞ狼狽する、えうするに意氣鎖沈せうちんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
渠等かれらおのれこばみたるもの店前みせさきあつまり、あるひ戸口とぐち立並たちならび、御繁昌ごはんじやう旦那だんなけちにしてしよくあたへず、ゑてくらふもののなになるかをよ、とさけびて、たもとぐれば畝々うね/\這出はひいづるくちなはつかみて
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
塩物屋しおものやさけの切身が、びた赤い色を見せて、並んでいる。隣りに、しらす干がかたまって白くり返る。鰹節屋かつぶしやの小僧が一生懸命に土佐節とさぶしをささらでみがいている。ぴかりぴかりと光る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おくみは念のために座敷のお蒲団を一枚出して、縦横の寸法をして見た。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
いや、諸々の原因は数えあげることは出来たが、その諸々の原因そのものが本来なれば胸の火をより燃えからしむべき薪である筈だった。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
「こよいは、そちや菊王も交じえて、心ゆくまで、別杯をもうよ。小右京に琴をひかせ、わしは琵琶を弾じよう。その支度、清々すがすがとしておけや。夜明けなば、あずま立ち、やかにここを立ち出でたい」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見くびられてはぞ心苦しかろうと岡見ながらも弁えておきたい。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
一念いちねんここに及ぶごとに、むねはらわたけて、しん悔恨かいこんあたわざるなり。
人類文化の宣伝事業じゃ。何も参考、話の種だよ。サアサ寄ったり、聞いたり見たり……外道——ア——エ——もん
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
にこの奥方なれば、金時計持てるも、真珠の襟留せるも、指環を五つまで穿せるも、よし馬車に乗りて行かんとも、何をかづべき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
黒犬にももまれて驚いたなどという下らない夢を見る人は、めていても、のみの目をされて騒ぐくらいの下らない人なのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
八「はせな、身体かあだすびれてあうけねい、す事が出来ぜきねい、ホリャ困っさな、女中衆ぞつうす/\」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
尉官は腕をこまぬきて、こもまたやわらぎたるていあらず、ほとんど五分時ばかりの間、互に眼と眼を見合せしが、遂に良人まずびたる声にて
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶴はその後二分ほどの間、いかにも楽し気に唄いつづけていたが、やがて気がしたようにフッと歌をやめてしまった。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
頭の上で鳴るそれを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切りいなまれた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
わが友にて命運の友にあらざるもの道をびたる麓に塞がれ、恐れて踵をめぐらせり 六一—六三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
犬よりも下に新介を見げていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば支那人もつとに禽獣が農事に大功あるを認め、十二月にろうと名づけて先祖を祭ると同日、といって穀類の種神を祭り
注射——猛烈な毒物や、空気の静脈注射と言うことも考えられますが、全身の皮膚は剥いたゆで卵のように綺麗で、のみされたあとも見付かりません。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
急に烈しく睡気ねむけして来たので、丑松は半分眠り乍ら寝衣ねまきを着更へて、直に感覚おぼえの無いところへ落ちて行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
西風々ふうふう
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
て此に至れば、死刑は固より時の法度に照して之を課せる者多きを占むるは論なきも、何人か能く世界万国有史以来の厳密なる統計を持して
死生 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
趣味とは、眺めてゐるものと、はつて見るもの、れなければ堪能できないものと、心に養つてゐるものとがある。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
話がだんだんみしくなって来た。顔に似合わず、彼女もやはり女であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「愛」はすなはち馳せりつ、馳せ走りながら打泣きぬ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
北の島根にかり來て
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
頭から翅の端まで、緋一色のうえに、白で、繊細なアラベスクの模様をした、見たこともない珍奇なものだった。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お村は立って戸棚から徳利とくりを出して、利休形の鉄瓶てつびんへ入れて燗をつけ、膳立をして文治が一杯飲んではお村にし、お村が一杯飲んで又文治にし、さしつ押えつ遣取やりとりをする内
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御座おざめる事の多い者であって、それを忌憚きたんなく女自身が書いたら風俗を乱すなどと想う人もありましょうが、女とても人ですもの、男と格別変って劣った点のある者でなく
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そしてあのこおろぎの鳴くのは、「襤褸つづれせつづれさせ」と言って鳴くのだ、貧しいものはあの声を聞いて冬の着物の用意をするのだと言って聞かせました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
結構の奇、事状の異、談話の妙、所謂三拍子揃い、柳のえだに桜の花をかせ、梅のかおりをたせ、ごうも間然する所なきものにて、さきに世に行われし牡丹灯籠、多助一代記等にまさる事万々なり。
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
ほど経て窻をおと
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
頃は夏の最中もなか、月影やかなる夜であつた。僕は徳二郎のあとについて田甫たんぼに出で、稻の香高き畔路あぜみちを走つて川のつゝみに出た。堤は一段高く、此處に上れば廣々とした野面のづら一面を見渡されるのである。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
たゞぼく心配しんぱいでならぬは家内かない——だ。ことほうべにしたようになつて呼吸こきうせわしくなる。ぼくこれるのがじつつらい。先生せんせい家内かないおなやまいのものが挑動いらだとき呼吸こきうきいことがあるかネ。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)