どり)” の例文
旧字:
マリーナ ぶちのめんどりが、ひよっ子を連れて、どこかへ行ってしまったんですよ。……からすにさらわれなけりゃいいが……(退場)
もう町には一番どりの声もする。暁は来ているのだ。——だのに、ここまでに至りながら、肝腎かんじんかなめな上野介のすがたが見当らないとは!
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半蔵は江戸の旅を、景蔵らは京都の方の話まで持ち出して、寝物語に時のたつのも忘れているうちに、やがて一番どりが鳴いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
余儀なく寐返りを打ち溜息をきながら眠らずして夢を見ている内に、一番どりうたい二番鶏が唱い、漸くあけがた近くなる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ある時は、月の落ちかかる頃になって、やっと来た。ある時は、遠近おちこちの一番どりが啼く頃になっても、まだ来ない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
八蔵は農家の伜であるが、家には兄弟が多いので、彼は農業の片手間に飼いどり家鴨あひるなどを売り歩いていた。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一番どりが鳴く。まだ暗い午前三時の空気を、羽ばたきの音がゆるがせる。提灯をつけた大男が、長屋のせまい路地を走るように過ぎ、一軒々々、戸をたたいて、起して廻る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
わたしの迷惑は第二としても、伊賀の源三郎——いいえ! この司馬道場の主の臣を、こんなおろかしいことで傷つけたくはありません。もう、一番どりのなくころでしょう。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一番どりであろう……とりの声が聞こえて、ぞっとした。——引手茶屋がはじめた鳥屋でないと、深更よふけに聞く、鶏の声の嬉しいものでないことに、読者のお察しは、どうかと思う。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「明日は大丈夫じゃ、この雲は夜中ごろから晴れて、二番どり時分から風になるよ、しおもなおるし、明日は日の高いうちに豊橋へ着く、今日のように、潮の悪いことはめったにない」
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一番どりの啼き声がして、夜の深さを教えたが、まもなく啼きやんでひっそりとした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近くに寝ている女房が寝返りの音を聞いて気をもむことがあるかもしれぬと思うことで、床の中でじっとしているのもまた女王に苦しいことであった。一番どりの声も身にんで聞かれた。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
冬の朝の七ツどきですから、ようやく三番どりが鳴いたか鳴かないのかまだまっくらいうちです。かくて道中、事も起こらずに増上寺へお着きとなれば、もうあとはたわいがないくらいでした。
今から一番どりが鳴くまでじっと眼をつぶっていろ。そうすれば眼が見えるようになる。おれはこれから二人の塩漬けの人間を生き上らせに行くんだ。邪魔をするとおれのの音をきかせるぞ。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
と不意にいつたものがありました、それは意地悪の婆さんどりでした。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
どこかで、もう、三番どりが、孤独そうに、時を告げていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
自宅に帰って寝るころに一番どりの声をきいたと言っていたが、その清助も祭りの世話人の一人ひとりであるところから
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれど、蝙蝠の敏覚びんかくに、七たび八たびおなじことをくりかえしても、呂宋兵衛の努力はむなしかった。はやくもさとでは一番どりがなく、かれは気が気でなくなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これから相談をして、やめるなりなんなりいたしますが、昨日きのうからかまえをして今朝けさは今朝で二番どりから起きて来ておりますし……」と、顎髯の男は云ったが腹の中では僧のことば嘲笑あざわらっていた。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……今は夏だが福島の冬、それがまた素晴らしくよかったものだ。実際俺を考えさせてくれたよ。そうそうある時こんなことがあった、雪の降っていた真夜中に、夜啼きどりの声が聞こえて来たのさ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と一声、早い一番どりの鳴く音。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それを取り戻そうとして、つやおもてから畳石たたみいしの辺で双方のもみ合いが始まる。とうとうその晩は伊勢木を荒町に止めて置いて、一同疲れて家に帰ったころは一番どりが鳴いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
城外いずくにか一番どりの声。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中井弘蔵こうぞうがその棺を持って大坂に帰り着いたころは、やがて一番どりが鳴いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)