鳥兜とりかぶと)” の例文
今度の路は金右衛門さんの家の正面でなしに、座敷の左手の庭へ附いて居るのでした。其処そこには鳥兜とりかぶとの紫の花が沢山咲いて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
六十歳の壽齋は、十六歳のめかけを迎へる氣で、したゝか鳥兜とりかぶと煎藥せんやくを呑んだのだ、お道は幸ひにその爪を免れたが壽齋は死んでしまつたのだ。
兩方から一丈餘りに延びた蓬が茂つて、撓むまでさいた鳥兜とりかぶと草が丈を爭うて立ち交つて居る。一丈餘の蓬で箸を折つて見たらやつぱり蓬のかをりがした。
鉛筆日抄 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼らは帽子とも頭巾ずきんとも名の付けようのない奇抜なものをかぶっていた。謡曲の富士太鼓を知っていた自分は、おおかたこれが鳥兜とりかぶとというものだろうと推察した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老來精を養ふ爲に鳥兜とりかぶとの根を毒草と知りながら用ひ、ひそかに若返りを誇つてゐたところ、フト分量をあやまつて、一夜にして急死した例があります。
そこにて鳥兜とりかぶと野菊のきくと赤きたでとを摘まばや。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あとはせいさかんにして、百歳の若さを保つ爲めには、鳥兜とりかぶとの根から採る藥に限るさうだ。こいつはしかし恐ろしい毒藥だ、分量を間違へると立ちどころに死ぬ
毒は——南蠻物でなければ、アイヌが使ふといふ、鳥兜とりかぶとの根を煉つて、膏藥のやうにしたものだ。——それを
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
三人とも口を揃えて毒は裏庭に今を盛りと咲いている鳥兜とりかぶとの根を味噌汁へり込んだものと分りましたが、誰がそんな事をしたのかとなると、まるで見当も付かないのです。
鳥兜とりかぶとの根をうんとせんじ、藥だと言つて、先代の旦那の嫌がるのを無理に呑ませたことを、見てゐた奉公人は皆んな追ひ出され、見なかつたと言ひ張つた私だけが無事に殘されました。
霍亂かくらんで死んだといふ、小僧の友吉も、毒害されたに違ひあるまいよ、鳥兜とりかぶとなどで殺されると、霍亂とよく似てゐる、多分小僧の友吉は誰かほかの人に盛つた毒を、意地ぎたなをして食ひ
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
道庵は、多分田螺たにしを干して粉末こなにしたのと、毒草どくさう鳥兜とりかぶと烏頭うづだらうと申しますが、それを打ち明けると殺されるから、家へ歸つて研究すると言つて、首尾よく送り還されたさうで御座います
道庵は、たぶん田螺たにしを干して粉末こなにしたのと、毒草鳥兜とりかぶと鳥頭うずだろうと申しますが、それを打ち明けると殺されるから、家へ帰って研究すると言って、首尾よく送り還されたそうでございます
「ところで、あの毒は何んでせう。あつしも隨分いろ/\の毒死は見ましたが、お内儀のやうなのは始めてです。石見いはみ銀山とか鳥兜とりかぶととか、斑猫はんめうとかいふ、ありきたりの毒とは違つたもののやうですが——」