すずき)” の例文
すずきの背ごしでもこしらえて、酒の支度でもしといておくれ、久しぶりでいい気持になった、今日はゆっくりして行こう、と云った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
源太はすずき釣りの名人で、どんな漁師も鱸釣りでは彼にかなわなかった。或る年のこと某県の知事が来て、源太の舟で鱸釣りをした。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
後に姓をすずきと書し枕山湖山と並んで詩名を世に知られたのは即この人である。松塘が始めてを星巌に執ったのは十七歳の時だという。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
殊にここのすずきは、亡き父と二年続けて試みて想い出が深いのである。久慈川には、関東一と言われるほど姿、味も立派な鮎が棲んでいる。
水の遍路 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
うろこの落ちたすずきひれを真水で洗う、手の悪い魚売人には似たれども、その儀では決してない。姥殿、此方こなた一拭ひとぬぐい、清めた上で進ぜまいかの。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コウゾの長い綱を延ばして釣をする海人あまの釣り上げた大きなすずきをさらさらと引き寄せあげて、つくえもたわむまでにりつぱなお料理を獻上致しましよう
「魏王が一代のご馳走といってもいいこの大宴に、名も知れぬ魚の料理とは、貧弱ではないか。大王、なぜ松江しょうこうすずきをお取り寄せにならなかったか」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夏は梅雨に濡れながら鯉釣りやえび釣りにゆく。秋はうなぎやすずきの夜釣りにゆく。冬も寒いのに沙魚はぜの沖釣りにゆく。
深川の老漁夫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三年のすずきが食いつこうと、あるいはまた間違って糸蚯蚓みみずほどのはえ(註に曰く、ハエをハヤというは俗称なり。形鮎に似て鮎に非なる白色の淡水魚なり)
軍用鮫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さてそこへあがって見ると、あんじょう家も手広ければ、あるじおきなも卑しくない。その上酒は竹葉青ちくようせいさかなすずきかにと云うのだから、僕の満足は察してくれ給え。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのあと華奢な象牙の箸でギヤマンの大鉢の中の銀のようなすずきの洗いのひと切れを、さも美味しそうに口へ運んだ。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そこは、海辺近くだから春はめばる、夏はすずきと魚にこと欠いた経験はなくて何十年来暮していたところ、今度行ってみると、母は魚買いに苦心している。
主婦意識の転換 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
すずきその他の川魚を漁する人の、豊島の渡よりこゝの渡にかけて千住辺りまでの間に小舟をうかめて遊ぶも少からず。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大川が近いので、男衆はちょっとした際を見ては投網とあみに行って、すずきなどをとって来るのだったが、そんな場合、次郎が一緒でないことは、ごく稀であった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そりゃあ鯛やすずきには大らかなうまさはあるが、頭から尻尾まで全部たべられるような親身な味ではない。
瀬戸内の小魚たち (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ヨーロッパにはすずきに似た河魚で、小さな魚類を貪食する種類があるが、ある人がこの魚を水族箱に入れて養い、箱の中央へ一枚のガラス板を入れて仕切りを造り
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
仏道に帰依して、二、三十年の間は、少しもなまぐさいものを口にしなかったが、あるとき、友だちの一人が松江のすずきを煮ているところへ往き合せたことがあった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
今の鯛汁も西洋料理から出たといったが西洋料理でお魚のスープというとよく病人に食べさせる。お魚は鯛でもすずきでもかれいでも比目ひらめでも何でも白い身の物ならばいい。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夏の匂ひのする、夏の光りのある、夏の形体をもつてゐる魚——といつたら、すぐ鮎だ、きすだ、たいすずきだ。夏ほど魚が魚らしく、清奇で、輝いて溌剌としてゐる時はない。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
私は生洲から上げたばかりという生けすずきの吸もののわんを取上げて、長汀曲浦ちょうていきょくほにひたひたと水量を寄せながら、浜の椰子林をそのまま投影させて、よろけしまのように揺らめかし
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕らは危怪きかいな蛸の単調を破るべく、鶏魚いさきすずき黒鯛くろだいの変化を喜こんでまた岸にのぼった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「わしだよ。そこでさつきの話のつゞきだがね、おまへは魚屋の前からきたとすると、いますずきが一匹いくらするか、またほしたふかのひれが、十テールに何斤くるか知つてるだらうな。」
山男の四月 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
にんじんは、釣ってきた魚のこけを、今、はがしている最中だ。河沙魚かわはぜふな、それにすずきの子までいる。彼は、小刀こがたなでこそげ、腹を裂く。そして、二重ふたえきとおった気胞うきぶくろかかとでつぶす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
けふの夫人の蒼白顏にはひとすぢの紅さもなかつたが、それは死人のつめたさではなく、すずきとか鯛のにくにある、ああいふ明りをしまつてゐる、しやりつとしたこりこりの頬の色だつた。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
中川のすずきおびき出され、八月二十日の早天そうてんに、独り出で、小舟を浮べて終日釣りけるが、思はしき獲物も無く、潮加減さへ面白からざりければ、残り惜しくは思へども、早く見切りをつけ
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
のみならずこれら所領の多くは河沼に接しているので、したがいて魚介の利があり、石原庄からは鯉を献上しているが、なかんずく魚の最も多くとれるのが三栖で魚の種類はすずきを主とした。
何と云っても謀反人だからなあ、もう一度洞庭どうていへ行って見たいものだ。松江のすずきを食ってみたい。女房や子供はどうしたかな? 幾人女房があったかしら? あっ、そうだ、四人あったはずだ
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
松江のすずきのフライ、北極熊のたなごころの焼肉、巴里パリ蝸牛かたつむり、といった類で、最後に配った果物の皿には、なんと南洋から飛行機で取寄とりよせたという、名果マンゴスチンさえうず高く盛ってあったのです。
素人しろうとながらに、近海物と、そうでない魚とを見分けることの出来るお三輪は、今おかへ揚ったばかりのような黒く濃い斑紋とらふのある鮎並あいなめ、口の大きくうろここまかすずきなぞをながめるさえめずらしく思った。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは川の水理や水温をくわしく調べる程度にとどまらず、魚の心理までも研究されたそうである。すずきのことをいろいろ調べて、貝殻の破片のような形の小さい鏡を釣針の近くにつけて試みられた。
露伴先生と科学 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
み冬づく西湖のすずきよく冷えて釣られたりけりとほ気先きさき
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
シラサ海老 を用ゐるものは大鯛釣、すずき釣、チヌ釣
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すずき
源太はすずき釣りの名人で、どんな漁師も鱸釣りでは彼にかなわなかった。る年のこと某県の知事が来て、源太の舟で鱸釣りをした。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……客に接しては、草履を穿かない素足は、水のように、段の中途でもう消える。……宵にはぜを釣落した苦き経験のある男が、今度はすずきを水際でにがした。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いにしえから、松江のすずきなますにして賞味するときには、かならず紫芽しげはじかみをツマに添えるという。薑はあるか」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すずきは八十八夜過ぎると、河に向うそうである。すると、かなり水温の低い頃から遡河をはじめるものと見える。
河鱸遡上一考 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「近年はだんだんに釣れなくなりましたよ。しかし夜釣りをやったら、鰻が釣れましょう。どうかすると、非常に大きいすずきが引っかかることもあるんですが……」
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
腰から下はすずきによく似たこまかい鱗におおわれ、そのびいどろのようないろの鱗は一枚々々みがかれたようにつやつやしく、うごくたびにきらっきらっと光ります。
人魚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
これは鯛かすずきかイサキのようなお魚へ塩をあてておいてそれから湯煮ゆでて身を細かくむしり取って湯煮玉子の細かく切ったのと混ぜてそれを七分に御飯三分の割で御飯を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「わしだよ。そこでさっきの話のつづきだがね、おまえは魚屋の前からきたとすると、いますずきが一ぴきいくらするか、またほしたふかのひれが、十テールに何ぎんくるか知ってるだろうな。」
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それからたいすずき、本来なら魚としても、釣りとしても鯛と鱸が第一であらう。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
と、尾生の鼻をかすめて、すずきらしい魚が一匹、ひらりと白い腹をひるがえした。その魚の躍った空にも、まばらながらもう星の光が見えて、蔦蘿つたかずらのからんだ橋欄きょうらんの形さえ、いち早い宵暗の中にまぎれている。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
料理界にてこそ、鯉は川魚中の王なれ、懸りて後ちの力はすずきの比に非ず。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
前には刀禰とねの大河が溶漾ようようと流れていた。上つ瀬には桜皮かにわの舟に小檝おがいを操り、藻臥もふじ束鮒つかふなを漁ろうと、狭手さで網さしわたしている。下つ瀬には網代あじろ人が州の小屋にこもって網代にすずきのかかるのを待っている。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
松花江スンガリーすずきこほれる春早き哈爾賓ハルビンの朝のいちに行くなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
釣り上げしすずきの巨口玉や吐く
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
那珂川下流の、鮭の子にすずき釣り。備前堀の鯉釣りなど、季節季節の釣りに追われるような思いを持ってきた。
那珂川の鱸釣り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
左慈は、一竿かんを持って、らんの外へ、糸をたれた。玄武池げんぶちの水は、満々とそよぎ立ち彼の袖がひるがえるたびに、たちまち、大きなすずきが何尾も釣りあげられた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すずきねる、ぼらは飛ぶ。とんと類のないおもむきのある家じゃ。ところが、時々崖裏の石垣から、かわうそ這込はいこんで、板廊下やかわやいたあかりを消して、悪戯いたずらをするげに言います。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)