はし)” の例文
車ははしり景は細かく移るごとに、変った岸べの蛍が先刻見た光とはべつなあたらしい光を点じ、そしてその幾つかは舞い上っていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
をりからあめのあとのおもて打沈うちしづめる蒼々漫々さう/\まん/\たるみづうみは、水底みなそこつきかげはうとして、うすかゞやわたつて、おき大蛇灘おろちなだ夕日影ゆふひかげはしつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「今は各自の命を呉れよ」と云うが早いか栗毛に鞭くれてはしり出した。従士達も吾劣らじと後を追うて、上野街道忽ち馬塵がうず巻いた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
したがって家中で「はしり廻るほどの人」は、皆たわけがそろってしまう。そのたわけを家中の人が分別者利発人とほめる。
あんまり馬をはしらせしゅぎたもんだから、半分は、馬が途中でたおれてしゅまったんだそうだ。——今、やって来ましゅよ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
馬車、自動車は鈴を鳴らし、広い車道をはしって行く。三層五層の大厦の窓は、ことごとく扉を開け放され忙しそうに働く店員達の小綺麗な姿が見えている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この辺を電車がはしっているときは、車内の電燈までが、電圧が急に下りでもしたかのように、スーッと薄暗くなる。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
愧死きししても足りません。大酔していたため、ついその……後閣へはしって、城外へお扶けするいとまもなく」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
権八は仲間にとりまかれて傷の始末をしてゐる間に私はどん/\はしり出した。一足早く帰つて権八の両親にそのことを云つてびるより他はないと思つたのだ。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
ちょっとした肉体上の努力にも、長く歩いたり早くはしったりしても、疲れてしまった。すぐに息切れがした。胸が痛んだ。ときどき老友シュルツのことを考えた。
この道位、自動車ではしって気持のよい所は少いだろう。何しろ三千じゃくの峠を越して、由布院の盆地が二千二百尺の高さなのである。六里の高原を、一時間半自動車が走りつづける。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
まちの中を消防自動車が物凄い唸り声を上げてはしって行きます。私はその喧しい唸り声の中に『今に——座が焼けているんだ』そんな言葉をハッキリ聴きとることが出来るのでございます。
幻聴 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
かの字港に着くと、船頭がもう用意したくをして待っていた。寂しい小さな港の小さな波止場はとばの内から船を出すとすぐ帆を張った、風の具合がいいので船は少し左舷さげんかしぎながら心持ちよくはしった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いらいらした二人の心持は、どこまでもはぐれてはしらずにはいなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たつた一人で過す多くの夜を、その窓にもたれて、彼は幾度いくたびか/\自分の仕事、自分の将来についていろ/\に思ひをはしらせた。そんな時、いつも彼の心のうちには抑へきれない憧憬しようけいが波うつてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
ふっと、このままはしって電車道まで歩いたらおかしいだろうなと思う。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼はそれでも自分の目を疑うように、二三歩改札口へはしり寄った。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
落せしかば誠に勿化もつけの幸ひなりと悦びながら足を早めてはしる程にやがて鈴ヶ森へぞ指懸さしかゝりける斯る所に並木なみきの蔭より中形ちうがた縮緬ちりめんの小袖のすそたか端折はしをり黒繻子くろじゆすおびにてかたむす緋縮緬ひぢりめんたすきかけ貞宗さだむね短刀たんたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
姪はかう言つて、じつとその早くはしつて行くランチを見詰めた。
ある日 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
しろがねの玉をあまたにはこ荷緒にのおかためて馬はしらする
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
松花江スンガリー解氷かいひようまだし橇にして船腹ふなばら赤ききはまではし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
最北端の港 青森へとはし
本土の港を指して (新字新仮名) / 今野大力(著)
枕木の上をはしった
章魚人夫 (新字新仮名) / 広海大治(著)
猿はかなり広い檻のなかに、追ったりはしったり、喧嘩したりした。その悧巧な、快活に巫山戯ふざけるさまは総ての人に面白がられた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いわにも山にも砕けないで、皆北海の荒波の上へはしるのです。——もうこの渦がこんなにくようになりましては堪えられません。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕はまた元のような緊張と昂奮を感じ乍ら、訪問をだくすると共に、自ら第一番に此の室をはしり出ました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
間もなく現れた日本勢と闘ったが忽ちにして敗れ、申砬は南漢江に投じて溺死して果てた。この戦場は弾琴台と云って、稲田多く、馬をはしらせるのに不便な処であった。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
馬上の武士はもう何事も手のつくされないことを知ると、ただ一騎で野をよぎり、山麓の方に向きを据えると、はしりに馳った。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
蟹に乗ってら、曲馬の人魚だ、といううちに、その喜見城きけんじょうを離れて行く筈の電車が、もう一度、真下の雨にただよって、出て来た魚市の方へはしるのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
采配を口にくわえ、両手で鞍の輪を押えて居たが、堪らず下に落ちた。徳川の兵はしり寄って首を奪い、柵内に逃げもどろうとするのを志村追かけ突伏せてとり返す事を得た。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どの電車もどの電車も、前後不覚に寝そべった乗客がゴロゴロしていて、まるで病院電車がはしっているような有様だった。そんな折柄、この射撃事件が発生した。その第一の事件というのが。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二人は同じことを叫びあうと、かねてしめし合わせてあったことのように、気狂いのようになって土手のうえを川下をめがけてはしり出した。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
唯今ただいま鯖江さばえ鯖波さばなみ今庄いまじょうの駅が、例の音に聞えた、中の河内、木の芽峠、湯の尾峠を、前後左右に、高く深く貫くのでありまして、汽車は雲の上をはしります。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生絹は逃げかくれてはしるうしろ姿を見つめた。その心はどこかに冷たさのある、しかも人と人の苦しみのうえに乗っているような気持だった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
跫音あしおとが、ばたばたばた、そんなにも居たかと思う。表通の出入口へ、どっと潮のようにはし退いて、居まわりがひっそりする、と、秋空が晴れて、部屋まで青い。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
津の人と、和泉の人ははるかに基経のいるところから遠ざかって行き、やっと橘の姿も見えるほどだった。ほとんど、顔を打合わせるようにはしりに馳った。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一里ゆき、二里ゆき、三里ゆき、思いのほか、田畑も見えず、ほとんど森林地帯をはしる。……
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある蒼白い冬の晩であったが、はしなく人人がはしるので何心なく近づくと、有名な女でみんなは「電気娘」と呼んでいたのが歩いてゆくのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
うでる、ちゝる。はらへばはしつて、またスツとる。あゝ、をんなゆきうでだと、松葉まつばいのちいれずみをしよう、ゆびにはあをたまらう。わたしさけおもつて、たゞすぎ刺青ほりものした。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
太秦うづまさ村の端れからだいぶ自動車をはしらせてゐるうちに、竹の枝垣をめぐらした深い藪が見え、その藪の前に、白いひと筋の古風な田舍道路が走つてゐた。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
「せち辛い世の中ですで、鑑査の報酬を要求します。はっはっはっ。その料金としてじゃね、怪我人を病院へはしらす、自動車を使用しまするぞ。——用意!……自動車屋。」
だが右馬の頭は物もいわずに恥ずかしさのためか、蘆の荷をとり乱したままはしり出した。生絹はもうちょっとのことで車から出てあとをうところであった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
沼津に向って、浦々の春遅き景色をはしらせる、……土地の人は(みっと)と云う三津みとの浦を、いま浪打際とほとんどすれすれに通るところであった。しかし、これは廻りみちである。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕明りがまだ漂うている中空に、くらい蝙蝠こうもりやみを縫いながら低く地べたをすれすれにはしったりしていた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それが次第しだいはげしくつて、かぞへてなゝツ、身體からだ前後ぜんごれつつくつて、いてはび、いてはびます。いはにもやまにもくだけないで、みな北海ほくかい荒波あらなみうへはしるのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すては塞にいま一頭の馬の用意のあることを知ると、密林の間道をひたすらにはしった。
途中では、はるかに海ぞいを小さくく、自動車が鼠のはしるように見えて、みさきにかくれた。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十六七ねんぎました。——唯今たゞいま鯖江さばえ鯖波さばなみ今庄いましやうえきが、れいおときこえた、なか河内かはち芽峠めたうげ尾峠をたうげを、前後左右ぜんごさいうに、たかふかつらぬくのでありまして、汽車きしやくもうへはしります。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
基経は同じ土手の上をはしってあとをって行った。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
鰻屋うなぎやの神田川——今にもその頃にも、まるで知己ちかづきはありませんが、あすこの前を向うへ抜けて、大通りを突切つっきろうとすると、あの黒い雲が、聖堂の森の方へとはしると思うと、頭の上にかぶさって
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)