飛魚とびうお)” の例文
「だって、お父さま。海には、かもめだの、飛魚とびうおはいても、猫だの、鼠だのはいないでしょう。お父さまたちのお話は、ずいぶんおかしいのね」
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
百尺岩頭燈台の白堊はくあ日にかがやいて漁舟の波のうちに隠見するもの三、四。これにかもめが飛んでいたと書けば都合よけれども飛魚とびうお一つ飛ばねば致し方もなし。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
アーサー少年がいぶかしがるように、碧海湾は、眠ったようにしずまりかえって、飛魚とびうおの姿さえないのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
一学の左の手にあった小剣は、言葉のもとに、飛魚とびうおのように手を離れて、安兵衛の胸いたへ走ってくる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞いたことのない名だし、むろん独創のものだろうが、「飛魚とびうお」というつきの手に秘術があった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まだ岸本は海からい上って来たばかりの旅行者のような気もしていた。彼の心はかえりの船旅に通過した赤道の方へも行き、無数な飛魚とびうおの群れ飛ぶ大西洋の波の上へも行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若者の身のまわりには白い泡がきらきらと光って、水を切った手がれたまま飛魚とびうおが飛ぶように海の上に現われたり隠れたりします。私はそんなことを一生懸命に見つめていました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まぐろの中で一番不味まずいのは、鬢長びんながという飛魚とびうおのような長いひれを備えているもので、その形によって鬢長というらしい。これは肉がべたべたとやわらかく、色もいやに白く、その味、もとよりわるい。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「——こちゃただ飛魚とびうおといたそう——」
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
キリキリ、キリキリ、帆車ほぐるまはせわしく鳴りだした。船中の手下どもは、飛魚とびうおのごとく敏捷びんしょうに活躍しだす。みよしに腰かけている龍巻は、その悪魔的あくまてき跳躍ちょうやくをみて、ニタリと、笑みをもらしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
匕首は、飛魚とびうおのように、くうを泳いだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)