ひょう)” の例文
この渦が雷雨の一つの型であって、こうして出来た上昇気流が、電気の分離を生じ、あのすさまじい電光になり、またひょうを降らすのである。
「茶碗の湯」のことなど (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
摩伽羅迦まからか等(〔八部衆の悪神〕)が人民を害することを大いによろこんで霰やひょうを降らして、そうして収穫を滅却めっきゃくしてしまうのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その中でも雨と雪は最も普通なものであるが、ひょうあられもさほど珍しくはない。みぞれは雨と雪の混じたもので、これも有りふれた現象である。
凍雨と雨氷 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
足許に白蟻ほどの小粒なのが、空から投げだされて、さんみだして転がっている。よく見るとひょうだ。南はななめ菅笠冠すげがさかぶりの横顔をひんなぐる。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
天地の諸声をあざむく奏楽が同時に耳をろうすばかり沸きあがった。万歳の声は雲をふるわした。その夕方、大きなひょうが石のごとく降った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
午後一時すぎから、ひどい雷、雨、ひょう。丁度古田中さんが『孝子の俤』をもって来た。夕刻までふりつづく。咲、国国府津。
たゞ鳴らした丈である。その無作法にたゞ鳴らした所が、三四郎の情緒によくつた。不意に天から二三つぶ落ちてた、出鱈目のひょうの様である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから間もなく洛中らくちゅうの空に黒雲がおゝひろがって大雷雨が襲来し、風を起しひょうを降らして、宮中の此処彼処こゝかしこに落雷した。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たしかあれには、絞首台に上った罪人が地獄に堕ちる——その時の雷鳴を聴かせるというところに、ひょうのような椀太鼓ティムパニー独奏ソロがありましたっけね。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今度のように地の底までも通るような荒いひょうが降ったり、雷鳴の静まらないことはこれまでにないことでございます
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あたりは、岩窟がんくつに入ったように真暗で、そしてひょうがとんでいた。折々ぴかりとはげしい電光が、密雲の間で光った。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人間がタイタニックを造ってほこに乗り出すと、氷山が来て微塵にする。勘作が小麦を蒔いて今年は豊年だとよろこんで居ると、ひょうが降って十分間に打散す。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一切の物音は絶えて、唯ざあと降る音、ざあっと吹くおとばかりである。忽珂瓈からんと硝子戸がひびいた。また一つ珂瓈と響いた。ひょうである。彼はまだ裸であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
血相を変えている半蔵がようすの尋常でないことは、ひょうどころの騒ぎではなかった。もはや半蔵は敵と敵でないものとの区別をすら見定めかぬるかのよう。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ドッ! と音をたてて、ひょうかと思うような大きな雨粒と、枯れ葉を巻きこんだ風が、ふきこんでくる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
空にはいつの間にか眩ゆいほどの白い断雲がかかつてゐて、物音はそれが振り落す初夏のひょうだつた。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
論衡ろんこう』に雷が樹を打ち折るを漢代の俗天が竜を取るといったと見え、『法顕伝』に毒竜雪を起す、慈覚大師『入唐求法記』に、竜闘ってひょうを降らす、『歴代皇紀』に
丘を取り巻く林のこずえが、真赤に輝いて、空からコンクリートの破片が、ひょうの様に降り注いだのだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前の方の子供らが突然はげしく泣いて叫びました。列もとまりました。むちの音や鬼の怒り声がひょうや雷のやうに聞えて来ました。一郎のすぐ前を楢夫がよろよろしてゐるのです。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
時々ひょうでも降るかのように林の中から聞こえて来るのははぜた大栗が転がり落ちるのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
するとそれを合い図にして、耳をろうし目をくらますほどの恐ろしい殴打おうだは、ひょうの降るような音を立てて七つの馬車の上に浴びせられた。多くの者はうなって口からあわを吹いた。
大砲を打つと言うのです。黒いひょうを降らせる密雲が北の方からやって来ると言うのです。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
五月初旬の八十八夜前後には、季節の変り目を知らせる雷雨が赤城方面に発生して、ひょうなどを降らすことがある。其夜は晴れて気温が急降し、霜柱が立ち、翌朝は大北風が吹く。
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
露営地へ着いたのは四時頃だったろう。いよいよ天幕を張ろうと用意にかかった時、今まで晴れていた空が急に曇って来たかと思うと、バラバラと大粒なひょうが烈しく落ちて来た。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
東国の平野ならばあられひょうかと思うような、大きな音を立てて降る。これならばまさしく小夜時雨さよしぐれだ。夢驚かすと歌に詠んでもよし、降りみ降らずみ定めなきといっても風情がある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひょうの降ることすさまじく、かつは電光のうちに、清げなる婦人一にん、同所、鳥博士の新墓の前にたたずみ候が、冷く莞爾にこりといたし候とともに、手の壺微塵みじんに砕け、一塊の鮮血、あら土にしぶき流れ
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今鳴った雷の音につれて、ひょうのような大粒の雨がばらばらと落ちて来たので、利八はしばらく雨やどりをして行けと勧めたが、半七はそれを断わって、そのかわりに番傘を一本借りて出た。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、叔父さんはジユウルの手をとつて、自分が先きに立つて大粒のひょうのやうな雨の中を急ぎました。ポオル叔父さんは、此の森の向ふにある、岩の中に洞穴があるのを知つてゐました。
ひょうが降るわけでもない。稲光いなびかりひとつせず、雨一滴落ちて来ず……。とはいえ、あの混沌こんとんたる天上の闇、昼の日なかに忍び寄るこの真夜中が、彼らを逆上させ、にんじんをちぢみ上がらせたのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ゆうべの豪雨が此の地方では多量のひょうを伴っていたため、漸く熟れ出した葡萄の畑という畑がこっぴどくやられ、農夫達は今のところは手をこまねいて嵐のやむのをただ見守っているのだと云う事が
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
午後から雷鳴らいめいはげしく、ひょうのような雨さえ降って来た。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そしてとつぜん、大地は鳴り、天もゆすれ、怪しい風が、ゴオッとけたあとから、小石のようなひょうが、人馬の上へ降ッて来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名物のひょう その時はもう長く山上にとどまって居ったものですから余程寒くなりましたが、それをも打忘れたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
みぞれあられひょうなど沢山の種類があり、それらの生成機構はそれぞれ異った性質を持っているのであるが、霙や霰のことについては後に改めて触れることとする。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
人間がタイタニックを造って誇りに乗り出すと、氷山ひょうざんが来て微塵みじんにする。勘作が小麦を蒔いて今年は豊年だと悦んで居ると、ひょうって十分間に打散らす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
嵐もひょうも虹もそこに神として現れたし、彼等の体を温めたり獣の肉をあぶったりする火さえもその火が怒れば人間を焼き亡す力を持っている意味で、やはり神であった。
「艇長。非常報告。只今本艇に向けて、宇宙塵うちゅうじんひょうのように襲来しました。損害調査中です」
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、アバディーン地方特有の東北風が連日、雨とひょうとを伴って吹荒ふきすさ沈鬱ちんうつな八月であった。スティヴンスンの身体は例によって悪かった。或日エドモンド・ゴスが訪ねて来た。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ひょうだ。」お父さんが云ひました。ガアガアッと云ふその雹の音の向ふから
十月の末 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
うねもある。なかには氷罅クレヴァスもある。ときどき、ひょうのようなのがばらばらっと降ったり、粉塩を小滝のように浴びることがある。と、ふとそばの壁をみたとき、思わず私ははっと呼吸いきをとめた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夫人 このあたりは雨だけかい。それは、ほんの吹降りの余波なごりであろう。鷹狩が遠出をした、姫路野の一里塚のあたりをお見な。暗夜やみよのような黒い雲、まばゆいばかりの電光いなびかり可恐おそろしひょうも降りました。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある日の午後、馬籠峠の上へはまれにしか来ないような猛烈なひょうが来た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
能くひょうを吐き雨を祈るべし、故に竜子の名を得る、陰陽折易の義あり、易字は象形、『周易』の名けだしこれに取るか、形蛇に似四足あり、足を去ればすなわちこれ蛇形なりと〉、『十誦律』に
ひょうがからだにパラパラと当たると、ようやく、それも不承不承うなる——
不意に天から二、三つぶ落ちて来た、でたらめのひょうのようである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてひょうがふったり雷が鳴ったりします。
茶わんの湯 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして、躑躅つつじさきちならぶ殿楼長屋でんろうながやのいらかのなみへ、バラバラバラバラまッくろな落葉おちばのかげがひょうのようにってくる!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の出て来たとしには殊に大きなひょうが降った。その雹は雪山の名物ともいうべき物で、私は一度ネパールの中で出逢であった事がある。実に驚くべき大きなひょうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
とくに雷雨やひょうのような場合は、まず不可能である。雹が通ったあと、ある畑はめちゃくちゃになっているが、隣りの畑にはまったく被害がないことがよくある。
九月は農家の厄月やくづき、二百十日、二百二十日を眼の前に控えて、朔日ついたちには風祭をする。麦桑にひょうを気づかった農家は、稲に風を気づかわねばならぬ。九月は農家の鳴戸なるとの瀬戸だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)