雉子きじ)” の例文
雉子きじの雄は二月、三月が季節の盛りで、雌の方は三月、四月が最高潮である。鴨でも、鯛でも、鮎でも雄の方へ一足先に季節がくる。
季節の味 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
餅菓子店もちぐわしやみせにツンとましてる婦人をんななり。生娘きむすめそでたれいてか雉子きじこゑで、ケンもほろゝの無愛嬌者ぶあいけうもの其癖そのくせあまいから不思議ふしぎだとさ。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さてそれから少しあとのことであった。今まで狩猟などをもよろこんでいたことであるから定基のところへ生き雉子きじを献じたものがあった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
花すすきの間から、雉子きじの親が、たくさん雛をつれて、餌をあさりに、朝夕漫歩しに出てくるが、香屋子の声ぐらいでは、逃げもしない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには古い絵具のげかけた壁画があって、つるかめ雉子きじのようなものをいてあったがそれもことごとく一方の眼がつぶれていた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
雉子きじ日記」のなかで、私は屡々しばしばミュゾオのやかたのことを持ち出したが、それについて富士川英郎君から非常に興味のあるお手紙を頂戴した。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その人たちの休む仮屋が片隅の二本杉の傍にあって、にぎやかな人声もしますが、常は静かなもので雉子きじが遊んでい、夜はふくろうの声も聞えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
一羽の雉子きじを見つけて鉄砲のねらいを定め、まさに打ち放そうとするときに、不意に横合よこあいから近よってこの男の右腕を柔かに叩く者があった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
佐藤成裕の『中陵漫録』二に虎狗を好み狗赤小豆あずきを好み猫天蓼またたびを好み狐焼鼠を好みしょうじょう桃を好み鼠蕎麦そばを好み雉子きじ胡麻を好み
と、ザッザッと異様な音がしたので、新子がドキッとして、思わず準之助氏の方へ肩を寄せると、こみちのすぐ傍から、一羽の雉子きじが飛び出した。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山県紋也の邸を出て、雉子きじ町の通りを東南へ下れば、吹矢町、本物町、番場町となって、神田川の河岸へ出る。——今日の地理とはだいぶ違う。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
立ち並ぶそれらの大樹の根本をふさ灌木かんぼくの茂みを、くぐりくぐってあちらこちらに栗鼠りすや白雉子きじ怪訝けげんな顔を現わす。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
日向は暑いし風の吹く処は寒いので、風の当らない木蔭をもとめて、鷹に追われた雉子きじのように偃松の繁みに潜り込む。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこで、机の上にあった兵馬の置手紙を見て、はアとうなずいたきりで、深くは念頭にとめず、やがて、御持参の雉子きじで酒を飲みはじめたようです。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そういうところに、野生の兎がいたり、少し町はずれに出ると、林があって、雉子きじが、時々道路へ出て来て、自動車に轢かれることがあるそうである。
シカゴの雉子 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
と云ってやると、矢張何とも返事はしないで、雉子きじを贈ってよこしたので、女が重ねて云ってやった。———
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
新兵衛の女房の介錯かいぞえで、お菊を隣村の夜祭りへ連れ出したことや、雉子きじが鳴いたり、山鳥やまどりが飛んだりする
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
時には草一本ないところに出るかと思えば、時には深い草叢くさむらのところに出くわした。そんなところからは雉子きじが驚いては飛び立ったり、うさぎが跳び出したりした。
高塔山たかとうやまと谷ひとつ隔てた山に、高野山こうやさん九州別院「東南院とうなんいん」がある。その周囲の鬱蒼たる森林に、このごろ、雉子きじが出没するという噂。猟の目あてはそれだった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
この村に聖天しょうでんを祭っている名高い寺があって、信者もすこぶる多い。その氏子に属する村落にては、雉子きじを崇敬することと松の木を忌み嫌うことがはなはだしい。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ほんのわずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうや疾駆しっくしてはきつねおおかみ羚羊かもしかおおとり雉子きじなどを射た。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
名月の光の下に、突如として鋭い雉子きじの声がする。あれは何に驚いたのであろうか、といったのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そのの兼題は「雉子きじ」と「藤」とだつた。そこに集まつた俳人達の多くは、虚子氏の前で手品使ひのやうにてんでに雉子を鳴かせたり、藤の花を咲かせたりした。
「千五百円の玉露を百目買ったし、雉子きじ羽根のはたきを一本と、赤玉チーズを一個買った、……」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうして、これまで注文した分には、たか雉子きじ鴛鴦おしどり、鶴、うずらなど……もう、それぞれ諸家の手で取り掛かったものもあり、また出来掛かっている物もあるのだという。
突然足下あしもとから雉子きじが飛び出したのに驚かされたり,その驚かされたのが興となッて、一同笑壺えつぼに入ッたりして時のうつッたのも知らず、いよいよ奥深くはいッて往ッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
兎や雉子きじを配達することもあるし、小さい包みや新聞を居酒屋の戸口にほうりこむこともある。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
長「贅沢と云やア雉子きじうちたてだの、山鳩やひよどりは江戸じゃア喰えねえ、此間こねえだのア旨かったろう」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御互おたがい身躯からだがすれすれに動く。キキーとするどい羽摶はばたきをして一羽の雉子きじやぶの中から飛び出す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土産みやげといえば、浪さん、あれは……うんこれだ、これだ」と浪子がさし出す盆を取り次ぎて、母の前に差し置く。盆には雉子きじひとつがい、しぎうずらなどうずたかく積み上げたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
第五は冷製混肉および冷製饂飩粉入うどんこいり鳥肉(パテ ド ジビィ、ガランチン ド ワライ)とて混肉は軍鶏しゃもの肉へ豚の肉を砕きて詰めしもの。饂飩粉入鳥肉は雉子きじの肉を用いたるなり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
源氏にも供奉ぐぶすることを前に仰せられたのであるが、謹慎日であることによって御辞退をしたのである。蔵人くろうど左衛門尉さえもんのじょう御使みつかいにして、木の枝に付けた雉子きじを一羽源氏へ下された。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
時どき雉子きじが啼いてとほつた。その声がおれの胸ぞこへしみわたるやうだつた。……
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
まぐろの食い方に雉子きじ焼きというのがある。これはまぐろの砂摺りを皮ごと分厚ぶあつに切って付け焼きにするのである。体中で一番脂肪に富んだところであるから、焼くのがたいへんだ。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「これで春先の雉子きじの飛び出す時分、あの時分はこのお山もわるくありませんよ。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
喜二郎の郎がなければ、喜二、すなわちキジ、鳥のきじに字音が通じます。そこで雉子きじ雉子きじケンケンおとこを落としたという評判が立ちました。そんなことがあっては武士の名折れでございます
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
雉子きじもなかずば射たれまい」の長柄川ながらがわの故事で、これは誰でも知っていますが。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
... よぶ夜の鶴、我はつまよぶ野辺の雉子きじ」又下の巻に入りて「さこいと云ふ字を ...
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかし当時文化十三年の武鑑には雉子きじ橋の吉田法印、本郷菊坂の吉田長禎、両国若松町の吉田快庵、お玉が池の吉田秀伯、三番町の吉田貞順、五番町の吉田策庵があるが、吉田仲禎が無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そのとき、今まで、泉の上の小丘をおおって静まっていたかやの穂波の一点が二つに割れてざわめいた。すると、割れ目は数羽すうわ雉子きじはやぶさとを飛び立たせつつ、次第に泉の方へ真直ぐに延びて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
何処どこにか、雪消ゆきげの匂いを残しながら、梅も、桜も、桃も、山吹やまぶきさえも咲き出して、かわずの声もきこえてくれば、一足外へ出れば、野では雉子きじもケンケンと叫び、雲雀ひばりはせわしなくかけ廻っているという
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
雉子きじぐるま雉子は啼かねど日もすがら父母恋し雉子の尾ぐるま
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たとへばよく雉子きじや山鳥などが、うしろから
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
大八車に雉子きじ剥製はくせいが揺れながら見えた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
山響き谷こたへてあとしづかなり雉子きじの聲
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
春の夜や昼雉子きじうちし気の弱り 太祇
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
桃太郎もゝたらう家臣かしんなる雉子きじ一類いちるゐため
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二番目にねた子に金の雉子きじ
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
糠雨ぬかあめに身振ひするや原の雉子きじ
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
つま雉子きじ雌鳥めんどり
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)