附近あたり)” の例文
転がつた無頼漢ならずものは、埃のなかで蛙のやうに手足をばたばたさせながらわめいた。附近あたりには同じやうな無気味のてあひがぞろぞろたかつて来た。
附近あたりで虫が鳴いている。パチパチパチパチパチパチと、岩燕いわつばめが群をなしてさっと頭上を翔け過ぎた。それさえ所がら物寂しい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
常は一人ひとりのひと取らるゝならひなるに、我等は二人ふたりながら彼處かしこにとられき、我等のいかなる者なりしやは今もガルディンゴの附近あたりを見てしるべし —一〇八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
夕方館の庭から沼に突き出た岬の𡽶はなで、細君が石に腰かけて記念に駒が岳の寫生をはじめた。余は鶴子と手帖の上を見たり、附近あたりの林で草花を折つたり。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
おらきこの附近あたりに住まふものぢや。われら家にて持つて来るものがおぢやるわ。少時しばしがほどここに待たれよ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
夕方館の庭から沼に突き出たみさき𡽶はなで、細君が石に腰かけて記念に駒が岳の写生をはじめた。余は鶴子と手帖の上を見たり、附近あたりの林で草花を折ったり。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
問題の硝子の破片があるという附近あたりの調査と、さらに次の喚問者として、執事の田郷真斎たごうしんさいを呼ぶように命じた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これはまた落雷らくらいのやうなこゑでした。さつきからくのをやめて、どんなことになるかとはらはらしながらきいてゐたせみ哲學者てつがくしや附近あたりがもとの靜穩しづかさにかへると
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
わたくしがそうした無邪気むじゃき乙女心おとめごころもどっている最中さいちゅうでした、不図ふと附近あたりひと気配けはいがするのにがついて、おどろいてかえってますと、一ほん満開まんかい山椿やまつばき木蔭こかげ
それに何のためにあんな時刻に淋しい総領事館附近あたりまであの女が出向いたんだろうというのが、不思議がられているんでございますよ。きっと誰かにおびき出されたに違いないなんて——
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
此の附近あたりにして人は解する。
盲になつた馬は、附近あたりが見えないから、今までのやうに物におびえて跳ねたり、飛んだりするやうな事は、まるで無くなつてしまふ。
また知る、この物サビーニの女達の禍ひよりルクレーチアの憂ひに至るまで七王の代に附近あたりの多くの民に勝ちていかなるわざをなしゝやを 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
花は兎に角、吾儕われら附近あたりは自然の食物には極めて貧しい処である。せり少々、嫁菜よめな少々、蒲公英たんぽぽ少々、野蒜のびる少々、ふきとうが唯三つ四つ、穫物えものは此れっきりであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その頃には、欄間の小窓から入って来る陽差が、「倫敦ロンドン大火之図」の——ちょうどテムズ河の真上附近あたりにまで上っていて、頭上の黒煙に物々しい生動を起しはじめた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
家から五丁程西に当つて、品川堀と云ふ小さな流水ながれがある。玉川上水の分流わかれで、品川方面の灌漑専用くわんがいせんようの水だが、附近あたりの村人は朝々あさ/\かほも洗へば、襁褓おしめの洗濯もする、肥桶も洗ふ。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ついでにちょっとくわえてきますが、そのころみこと直属ちょくぞく部下ぶかもうしますのは、いつもこれくらい小人数こにんずうでしかなかったそうで、いざ戦闘たたかいとなれば、いずれの土地とちられましても、附近あたり武人もののふどもが
その附近あたりから
そしてそれを附近あたりの乾いた石の上に置いて、今一冊の方を取り出さうとすると、その本はもう影も形も見えなくなつてゐた。
宿に着いたリンカンは附近あたりを見廻して、不機嫌な顔をした。部屋は馬小舎うまごやのやうに薄汚かつた。その上暖炉ストーヴには小さな火しか燃えてゐなかつた。
博士は大学の次ぎには、湯屋が好きだが、湯に入つて附近あたりに人が居ないのに気がつくと、きまつてお玉杓子たまじやくしの様な恰好をして、湯の中を泳ぎ廻る。
自動車が飛田とびた附近あたりへ来ると、むさ豚小舎ぶたごやのやうなうちから、一人の若者が転がり出して、車の前に大の字なりになつた。
東がしろんでから、二人が立つてゐた附近あたりへ往つてみると、小さな合葬の墓があつて無縁になつてゐる。
ほんとに吾ながら偉い博識ものしりになつたものだと高慢さうな顔つきで、附近あたりをじろ/\見まはしてゐると、だしぬけに隔ての障子が破れて、なかから大きな鼻が一つ飛出した。
第一の雀が片脚をあげて、毛深いぼんのくぼの附近あたりを掻きながら、こんなことを言いました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
どうせかういふ人達の落ち合ふ所だから、附近あたりに若い女と酒が無かつた事だけは神様の前で証人に立つてもい。その折星野氏は深い溜息をき吐き、独語ひとりごとのやうに言つた。
附近あたりには水が一面に飛び散つている。友達は香川氏の心臓も胃の腑もつぶけてしまつて、先刻さつき飲んだ酒がけし飛んだに相違ないと思つた。だが、よく見ると香川氏はきてゐる。