“錻力（ぶりき）” の例文
風船、ゴム玉、汽車や刀や、さまざまな珍奇な弄品（おもちや）が、ところ狭いまでならべられ、サアベルや鉄砲の錻力（ぶりき）の光つた色が、ちかちかしてゐた。
笛と太鼓 (新字旧仮名) ／ 室生犀星(著)
二日市の橋元屋という旅館の裏に住んでいる時、突然に父が帰って来て、小さな錻力（ぶりき）のポンプを呉れた時の嬉しかった事は今でも忘れていない。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
風谷は白耳義通ひの船の中で、汗みづくになつて豆腐を拵へた。そして船がアントワープに着くと、錻力（ぶりき）の缶へ叮嚀にそれを納めて、ブラツセルに急いだ。
茶話：04 大正七（一九一八）年 (新字旧仮名) ／ 薄田泣菫(著)
｟桜井駅楠公父子の別れ｠とかかれた題の下を、人形からでてきた錻力（ぶりき）製のインコが青磁の皿をたたいてゐたが、わたしがゆきすぎるとき、そいつは精一ぱい叫んだものである。
希臘十字 (新字旧仮名) ／ 高祖保(著)
室の中の有様もまた、周平の眼には物珍らしかった。安価な青い瀬戸の円火鉢には、錻力（ぶりき）の大きな薬鑵が疊の上にじかに置いてあった。その横の火燵には、派手な銘仙の布団がふわりとかかっていた。
反抗 (新字新仮名) ／ 豊島与志雄(著)
こうした錻力（ぶりき）製の呼吸孔の事を医学用語ではカニウレと云うのだが、和訳したら金属製咽喉笛とでもなるのかな。
超人鬚野博士 (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
その上から草原一面にかけて、真赤に錆（さ）びた錻力（ぶりき）の切り屑、古新聞、古バケツ、ゴム靴、古タイヤ、麦稈帽（むぎわらぼう）なぞが、不規則な更紗（さらさ）模様を描いて散らばっていた。
童貞 (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
自動車に轢（ひ）かれたり、牛の角を捉まえて押しくらをしたり、石ころを噛み割ったり、錻力（ぶりき）を引裂いたりする片手間に、振袖を着た小娘に化けて……笑っちゃいけない
超人鬚野博士 (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)