あたり)” の例文
新字:
かれくるしさにむねあたりむしり、病院服びやうゐんふくも、シヤツも、ぴり/\と引裂ひきさくのでつたが、やが其儘そのまゝ氣絶きぜつして寐臺ねだいうへたふれてしまつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さてこのあたりは夜たりがたく晝たりがたき處なれば、我は遠く望み見るをえざりしかど、はげしきいかづちをもかすかならしむるばかりに 一〇—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ヱルレトリの少女の群は、頭に環かざりを戴き、美しき肩、圓き乳房のあらはるゝやうに着たる衣に、襟のあたりより、いろどりたるきれを下げたり。
……かはあたり大溝おほどぶで、どろたかく、みづほそい。あまつさへ、棒切ぼうぎれたけかはなどが、ぐしや/\とつかへて、空屋あきやまへ殊更ことさらながれよどむ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「何んの禿げたるもんか、入れ毛なんぞしてえへん。」と、千代松は頭の祕密を押し隱すやうに、右の手で月代さかやきあたりを押へた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
瀧口入道、都に來て見れば、思ひの外なる大火にて、六波羅、池殿いけどの、西八條のあたりより京白川きやうしらかは四五萬の在家ざいけまさに煙の中にあり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ちゝなるものは蚊柱かばしらたつてるうまやそばでぶる/\とたてがみゆるがしながら、ぱさり/\としりあたりたゝいてうままぐさあたへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
圭一郎は又しても、病み疲れた獸のやうな熱い息吹を吐き、鈍い目蓋を開いて光の消えた瞳を据ゑ、今更のやうにあたりを四顧するのであつた。……
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
時々とき/″\さむかぜて、うしろから小六ころく坊主頭ばうずあたまえりあたりおそつた。其度そのたびかれさらしのえんから六でふなかみたくなつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それをも顧みずに猶進めば、果して町の盡頭はづれとも覺しきあたりの右側に、高く石垣を築きおこしたるいかめしき門構もんがまへの家屋あり。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
尋ぬるに源内は先内に入り我御仕置場にて首を切れしときハツとおもひしばかりにて其後そののちは何も知ずやがて氣が付て其あたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『論語』を見ると、孔子その人をあたりに見る樣な心地がせられ、殊にその郷黨篇には、飮食より坐臥に至る迄、孔子の生活状態を描き出して殆ど遺憾がない。
青々とした裾野につゞく十勝の大平野を何處までもずうと走つて、地と空と融け合ふあたりにとまつた。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
後の障子が颯と開いて、腰のあたりに細い紐を卷いたなり、帶も締めず、垢臭い木綿の細かい縞の袷をダラシなく着、胸は露はに、抱いた子に乳房ふくませ乍ら、靜々と立現れた化生けしやうの者がある。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
下足を受取り乍らも恍惚として心は小光のあたりに飛ぶといつたやうな心持でぼんやりして表に出た。先刻細君が「塀和さん行き度くないの?」と言つたのもあまり強く頭には響かなかつた。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
たゞそのしろかほあたりから肩先かたさきへかけてやなぎれたうすひかりおだやかにちてる。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「どうせ變死と知れずには濟まぬと思つたのさ、知れると、このあたりの事だから、俺が行くに決つてゐるぢやないか。どうせ平次の手に掛かるものなら、此方から訴へ出て好い子にならうといふ魂膽こんたんさ」
まいまいつむりのもろからあたり
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
紅の上衣を頂より被りて、一人の穉兒をさなごには乳房をふくませ、一人の稍〻年たけたる子をば、腰のあたりなるの中に睡らせたる女あり。
從者ずさは近きあたりの院に立寄りて何事か物問ふ樣子なりしが、やがて元の所に立歸り、何やら主人に耳語さゝやけば、點頭うなづきて尚も山深く上り行きぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
野鼠のねずみ退治たいぢるものはたぬきく。……本所ほんじよ麻布あざぶつゞいては、このあたり場所ばしよだつたとふのに、あゝ、そのたぬきかげもない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかして巡禮が、その誓願をかけし神殿みやの中にてあたりを見つゝ心を慰め、はやそのさまを人に傳へんと望む如く 四三—四五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
病室では千代松が道臣に默つて、京子の口のあたりに附いてゐる汚れを拭き取つて見ると、何か知ら青い色をしてゐるので、立つて元の物置を調べて見た。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ぬすみ取んと彼曲者かのくせものは半四郎が寢たる夜着よぎわきより徐々そろ/\と腹のあたりへ手を差入さしいれければ後藤は目をさましはてきやつめが來りしぞと狸寢入たぬきねいりをしてひそかにそばの夜具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はるになつてゆき次第しだいけた或日あるひ墓場はかばそばがけあたりに、腐爛ふらんした二つの死骸しがい見付みつかつた。れは老婆らうばと、をとことで、故殺こさつ形跡けいせきさへるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
宗助そうすけはそれから懷手ふところでをして、玄關げんくわんだのもんあたり見廻みまはつたが、何處どこにも平常へいじやうことなるてんみとめられなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女房にようばうだまつてくちあたりひやゝかなゑみふくんでひざをそつとうごかしてぐつすりねむりこけた自分じぶんた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
汽車の通ふセバツトの鐵橋のあたりに來ると、また一しきりざあと雨が來た。鐵橋の蔭に舟を寄せて雨宿りする間もなく、雨は最早過ぎて了うた。此邊は沼の中でもやゝ深い。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
而して最初の者の爲す事をばこれに續く者皆傚ひて爲し、かの者止まれば、聲なく思慮こゝろなくその何故なるをも知らで、これがあたりに押合ふ如く 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
寢衣ねまきも何もはだけ放題にはだけて、太腿ふともゝまでもあらはに、口のあたりには、鐵漿おはぐろのやうなものがベタ/\附いてゐる。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
とほりがかりにた。山椒さんせうを、近頃ちかごろおなあたりすまはるゝ、上野うへの美術學校出びじゆつがくかうでわかひとから手土産てみやげもらつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かつたひげが、ほゝあたりやうにざら/\したが、いま宗助そうすけにはそれをにするほど餘裕よゆうはなかつた。かれはしきりに宜道ぎだう自分じぶんとを對照たいせうしてかんがへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
御身の茲に來られしみちすがら、溪川たにがはのあるあたりより、山の方にわびしげなる一棟ひとむねの僧庵を見給ひしならん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
暫くこのあたり漫歩そゞろあるきして、汝が目の赤きを風に吹き消させ、さて共にマレツチイ夫人の許に往かん。夫人は汝と共に笑ひ共に泣きて、汝が厭ふをも知らぬなるべし。
引連ひきつれいではしたれどさわがしき所は素より好まねば王子わうじあたりへ立越てかへで若葉わかば若緑わかみどりながめんにも又上野より日暮ひぐらし里などへ掛る時はかれ醉人の多くして風雅ふうがを妨げ面白おもしろからねば音羽通を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
來年らいねんあたりはカフカズへ出掛でかけやうぢやりませんか、乘馬じようばもつてからに彼方此方あちこち驅廻かけまはりませう。さうしてカフカズからかへつたら、此度こんど結婚けつこん祝宴しゆくえんでもげるやうになりませう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
最初蝦夷松椴松のみどりに秀であるひは白く立枯るゝ峯を過ぎて、障るものなきあたりへ來ると、軸物の大俯瞰圖のする/\と解けて落ちる樣に、眼は今汽車の下りつゝある霜枯の萱山かややまから
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
くちかねえ、そんだらくち兩方りやうはうへふんえてやれ、さあくかかねえかとうだ」小柄こがらぢいさんは自分じぶんくち兩手りやうてゆびでぐつとひろげていつた、圍爐裏ゐろりあたりしばらさわぎがまなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
名物めいぶつかねく、——まへにも一度いちど神田かんだ叔父をぢと、天王寺てんわうじを、とき相坂あひざかはうからて、今戸いまどあたり𢌞まは途中とちうを、こゝでやすんだことがある。が、う七八ねんにもなつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小池は初めて氣がついたらしく、肩からひざあたりへかけて、黒い塵埃ほこりの附いてゐるのを、眞白なハンケチでバタ/\やつて、それからむかひ合つてゐるお光の手提袋てさげぶくろの上までを拂つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
見よ、「愛」は君いますあたり、のびらかに心のどけく
小庭こにはへだてた奧座敷おくざしき男女なんによ打交うちまじりのひそ/\ばなし本所ほんじよも、あのあんまおくはうぢやあわたしいやアよ、とわかこゑなまめかしさ。旦那だんな業平橋なりひらばしあたりうございますよ。おほゝ、とけたこゑおそろしさ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
呼吸いきめて、なほすゞのやうなひとみこらせば、薄暗うすぐら行燈あんどうほかかべふすま天井てんじやうくらがりでないものはなく、ゆきくるめいたにはひとしほで、ほのかにしろいはわれとわが、おもかげほゝあたり
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たはむれに箱根々々はこね/\びしが、ひとあり、櫻山さくらやまむかへる池子山いけごやまおく神武寺じんむじあたりより、萬兩まんりやうふさやかにいたるを一本ひともとかへりて、此草このくさみきたかきこと一ぢやうけだ百年ハコネ以來いらいのものなりほこ
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……對手あひて百日紅さるすべりだと燒討やきうちにもおよところやなぎだけに不平ふへいへぬが、口惜くちをしくないことはなかつた——それさへ、なんとなくゆかしいのに、あたりにしてはなりひろい、には石燈籠いしどうろうすわつたあたりへ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
けて見詰みつむるばかり、うつゝゆるまでうつくしきは紫陽花あぢさゐなり。淺葱あさぎなる、あさみどりなる、うすむらさきなる、なかにはくれなゐあはべにつけたる、がくといふとぞ。なつることながらあたりけておほし。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この見上みあぐるばかりな、これほどのたけのあるはこのあたりでつひぞことはない、はしたもと銀杏いてふもとより、きしやなぎみなひくい、土手どてまつはいふまでもない、はるかえるそのこずゑほとん水面すゐめんならんでる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あたり公園こうゑんひろいけあり。ときよし、かぜよしとて、町々まち/\より納涼すゞみひとつどふ。わらべたち酸漿提灯ほゝづきぢやうちんかざしもしつ。みづともしびうつくしきよるありき。みぎはちひさふねうかべて、水茶屋みづぢやや小奴こやつこ莞爾にこやかに竹棹たけざをかまへたり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うすものいで、おびいて、みづのやうなお襦袢じゆばんばかりで、がつかりしたやうに、つた團扇うちはうごかさないで、くのなりに背後うしろ片手かたていてなさるところ……うもおいろしろこと……ちゝあたり團扇うちは
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)