おし)” の例文
このようなことはあながち彼の創意でもなく、敵前渡河のときは、かくあやつるものとおしえている前人の貴い経験に基づくものであった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が「俗なほかくのごとし」として僧侶におしえる美徳は、すべて儒教の徳なのであるが、彼はそれを仏徒にもふさわしいと見るのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
東常縁は尭孝から右の『井蛙抄』のおしえをそのまま受け売りされて随喜しているのであって、『東野州聞書』につぎのように記している
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
あとでそのことを良人おっとに語ったら、その少しまえに、「武士はがまん強くなければならぬ」とおしえたということがわかった。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おしえてくださった「蠢くもの」は私の醒めがたい悪夢からいださしてくださいました——私がここから釈放された時何物か意義ある筆の力を
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
マヌウの法典のほとんどあらゆるところで、あらゆる種類の肉欲満足は力強く排斥されており、そして貞節は宗教的義務としておしえられている。
私たちが日常向い合っている物事について、私たちが考えたり、行為したりする態度を自由にしなさいとおしえた言葉です。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
蛇は犬の奸計とは気付かず爾来頭が痛むごとに律義に犬のおしえ通り官道へ横たわり行く。つまり頭が打ち砕かれたら死んでしまうから療治もらず。
それでも、老人たちの残したおしえは固く守られていると見えて、今でも、この島の最後の者たるべき女の児は、喇嘛ラマ活仏いきぼとけのように大事にされている。
「過去を探り現在を識り、未来を察して世を渡らば、人間間違いはないものじゃ」こう正成はおしえるように云った。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秀忠がその淡泊に驚いて、あゝ漢の張良とはこの人のことよと嘆声をもらして群臣におしへたといふが、それが徳川の如水に与へた奇妙な恩賞であつた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼らの父祖がおしえたように、相果てるまでだ。すると、残った彼らの一団に傷はつかないのだ。従って、打開すべき新たな方法も浮んで来るであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
手前におしえてやらあ、今度お上さんが出かけるだったらな、どうもお楽しみでございますねって、そう言って見や、鼻薬の十銭や二十銭黙ってくれるから
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
浅草ではどんな風にわれわれ二人がおしえられたか、それを今語ってみたい。藤村は例の玉乗り興行場の前に立ちどまって、ゆっくりと煙草をふかしている。
父母たるものは、その幼穉ようちにして感得の力もっともさかんなるときにあたり、これをおしゆる、造次ぞうじも必ずここにおいてし、顛沛てんぱいも必ずここにおいてするを
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
その辺の心掛けは、とうからおしえて置いたつもりゆえ、格別、案じもせねど、また、何かと、このようなじじいでも、頼りになるときがあらばたずねて来るがよい
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
しろがねも黄金も玉も何かせんです! ⦅金を持つより、善き友を持て⦆と或る賢人もおしえていますからね。」
しかしこの柔和なれとおしうるはひと耶蘇教やそきょうに限ったことでない。道徳とさえいえば、マホメットの回々教フイフイきょうを除き、たいてい柔和にゅうわの徳を主として教えざるものはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おしえざるなきものなるがゆえに、また、そは永く家庭にとどまりて次々に伝わるものなるがゆえに
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
昔、仏教はおしえた、次の世界に極楽と地獄のあることを、それを思い合わせて見ると、この地獄極楽を訓えた者も或は僕の如くこの幻の世界の彷徨者であったかも知れぬ
息を止める男 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
姫君はまったく無邪気で、どう戒めても、おしえてもわかりそうにないのを見て大臣は泣き出した。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
折から「夕べの祈りをせよ」とおしふるようなお寺の鐘が、静かに静かに聞えてまゐりました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ただ単に山に入ってはいけないというおしえだけではすまず、どうしていけないかと問う者のあった時に、ちっとでも具体的に印象づけようとする用意であったかと思われる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それにもかかわらずイエス様は一度召された十二人を、イスカリオテのユダのように自分からそむき去った者は別として、終わりまで忍びて見すてず、愛しておしえ給いました。
そしてその御物越おんものごしはいたってしとやか、わたくしどもがどんな無躾ぶしつけ事柄ことがら申上もうしあげましても、けっしてイヤないろひとつおせにならず、どこまでも親切しんせつに、いろいろとおしえてくださいます。
おそらくへりくだる心のみが、彼らの仕事を清め深めるでありましょう。特に工藝の領域では、他力の恩沢を想いみるべきであります。絵土瓶は、そう吾々におしえてはいないでしょうか。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
間もなく都の豪家の傅日英ふじつえいという者が、子弟をおしえてくれと言って頼みに来た。
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人間は身体を責めて働かなあかんという他吉のおしえを忘れたわけではなかったが、どれだけ口を酸っぱく薦めても、いまだに隠居しようとせず、よちよち俥をひいて走っている他吉を見ると
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
またかの家庭のおしえは母親にありというなるに。そが母は元よりの田舎いなかそだちにて。一と通りの読み書きさえもおぼつかなきゆえに。浜子はいとど見落しつつ。教育なき女子は仕方なしなどと。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
余は幼きころよりきびしき庭のおしえを受けし甲斐かいに、父をば早くうしないつれど、学問のすさみ衰うることなく、旧藩きゅうはんの学館にありし日も、東京に出でて予備黌よびこうに通いしときも、大学法学部にりし後も
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
相手の身になって一応考えて見ることによって、つまらぬ心の焦燥を霧消させ得た経験はその限りなくある。私が理研りけんの研究室を辞して今の所へ赴任した時に、先生からいただいたおしえはこうであった。
指導者としての寺田先生 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし保胤ははやくより人間の紛紜ふんうんにのみ心は傾かないで、当時の風とは言え、出世間の清寂の思にむねみていたので、親王の御為に講ずべきことは講じ、おしえまいらすべきことは訓えまいらせても
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
という表現も、同じことをおしえている。
駄パンその他 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
しかし、佐渡がよく見よとおしえたのは、そういうわざの末のことではあるまい。人と天地との微妙な一瞬ひとときの作用を見よといったのだろう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さらぬ会席ならば高吟もすべし」とおしえているのを見ると、ここにもとめられている新しい抒情が、もとより風雅であることを知るのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
僧徒にこの板が風に随うて動きやまぬごとく少しもおこたらぬようおしえたとジュカンシュは言ったが、グラメー説には、塔頂に十字架に添えて鶏の形を設くるは
あなたも伯母さまのおおしえをよく守って、お祖父さまに負けないすぐれた人にならなければいけません。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とは、しんの男子の態度であろう。男もこの点まで思慮しりょが進むと、先きに述べたる宗教のおしうる趣旨にかのうてきて、深沈しんちん重厚じゅうこう磊落らいらく雄豪ゆうごうしつとの撞着どうちゃくが消えてくる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と娘におしえた。賢い人に聞いて見ても、占いをさせてみても、二条の院へ渡すほうに姫君の幸運があるとばかり言われて、明石は子を放すまいと固執する力が弱って行った。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
家中に於ける責任ある位置が、響きを立ててめぐる目まぐるしい時世のうちに凝固した。いかなる場合にも善処すること——と、そういったのは、早世した父のおしえであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
すると玉依姫様たまよりひめさまはほほとおわらあそばしながら、おしえてくださいました。——
雪之丞が、孤軒老師のおしえのままに投げた、恐ろしい暗示によって動いた、長い間、悪謀をともにして来た、言わば親友の広海屋の詐略さりゃくのために、ふたたびつあたわぬ打撃をうけてしまった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その所長は研究員の人に「君たちは百僚有司のその有司の一人じゃないか、こういう場合には、そんな馬鹿な話があるはずがないと言下に言い切れるようにならなくてはいけない」とおしえられたそうである。
流言蜚語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
用いずそこなわずに戦わんとは、余にもせぬことである。——左様な奇略があるなれば、信長、膝を屈しても、そちにおしえを乞うであろう
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず正徹は東常縁とうのつねよりに答えて、常光院尭孝はつねに『草庵集』を見るようにいう由だが、頓阿時分に心をかけるのは余りだとおしえる(『東野州聞書とうやしゅうききがき』)
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
いわんや人間万事思うままに行くものかというおしえの神詠とかで、今も紀州の人は不運な目に逢うごとにこれを引いて諦めるが、熊野猿ちゅうことわざ通りよほどまずい神詠だ。
おしえられたが、フリードリヒ帝の強さは相応にわかった人でなければはかり得ぬことである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おしえておいでになるのを聞いていて、紫夫人の偉さが明石にうなずかれた。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
長橋のおばあさまに、それからのちにもおおしえをうけたことが多い。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかも家康は、乱世の武門として、これから行くべき弓矢の大義をおしえられた。くれぐれも老婆の死後はねんごろにいたしてやれ
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)