もの)” の例文
「これ、やかましいお話は後ほどになさらぬか。そして、早く御方様を連れて、おめしもの、お風呂の支度など、急がねばお体にさわりますぞえ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ホ、ホ、ホ、ホ、そういうたとて、名古屋山三なごやさんざや政宗どの程な晴れ着でもない、ただあかがついていぬというだけのもの、さあ世話をやかせずに袖を通してみなされ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あしたに笑顔で出て、夕方には死体で帰るかもしれない侍奉公のたしなみとして、きょうも、下帯から肌着まで、あかのつかないものを着ていたということが、支度に退がる彼の心を、その時ふと
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほのかではあるが——下手へたなお化粧ではあるが——匂わしいものがただよっていたし、小袖は烏丸家から戴いたという紅梅地に、白と緑の桃山刺繍ぬいが散っている初春はるらしいものであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
潘金蓮はんきんれんは、おろおろと膝の上のいかけものを床にいて、西門慶の前へ立った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨夜ゆうべあたり、五条の近くまで、用たしに出ると、かわらに、斬られたか、飢え死にしている死骸の着ているものを、あさましや、野武士か、菰僧こもそうか、ようわかりませぬが、二、三人して、あばき合って
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)