ごろも)” の例文
身は、やぶれごろもに、なわおび一つ。そして、くつよりは丈夫らしい素裸足すはだしで、ぬっと、大地からえているというかたちである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鋼鉄はがねいろの馬のりごろも裾長すそながに着て、白き薄絹巻きたる黒帽子をかぶりたる身の構えけだかく、いまかなたの森蔭より、むらむらと打ち出でたる猟兵の勇ましさ見んとて
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やっと腰の痛みがうすらぐと、少年がまず最初にしたことは、変装のやぶれごろもの下にかくして、肩からさげていた小さなズックのカバンに、ソッとさわってみることでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから何日か後の月夜、姫君に念仏をすすめた法師は、やはり朱雀門の前の曲殿に、ごろもの膝を抱へてゐた。すると其処へさむらひが一人、悠々と何か歌ひながら、月明りの大路おほぢを歩いて来た。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
桃色大輪の吉野桜、それが千本となく万本となく、隅田すみだどて、上野の丘に白雲のように咲き満ちています。花見ごろもに赤手拭てぬぐい、幾千という江戸の男女が毎日花見に明かし暮らします。酒を飲む者。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女は花見ごろもの袖に顏を埋めて、どての夕闇に消えも入りさうでした。
くれなゐのひとはなごろもうすくともひたすら朽たす名をし立てずば
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あさごろもきればなつかしくにいもせの山に麻まく吾妹わぎも
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「さなきだにおもきが上のさよごろも
二重人格者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
花いろごろもを透きて見ゆる
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
砂の色せる絹ごろも
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
ひもせずひねるたゝみちりよりぞやまともつもるおもひの数々かず/\ひたしたしなどあらはにひし昨日きのふこゝろあさかりけるこゝろわれとがむればおとなりともはず良様りやうさまともはずはねばこそくるしけれなみだしなくばとひけんからごろもむねのあたりのゆべくおぼえてよる
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かつての月卿雲客げっけいうんかくも、人違いするばかりなやつれ方やらごろものまま、怪しげな竹籠たけかご伝馬てんま板輿いたごしなどで、七条を東へ、河原のぼりに入洛じゅらくして来た。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鋼鉄はがねいろの馬のりごろも裾長すそながに着て、白き薄絹巻きたる黒帽子をかぶりたる身のかまえけだかく、今かなたの森蔭より、むらむらと打出でたる猟兵の勇ましさ見むとて、人々騒げどかへりみぬさま心憎し。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
着て見ればうらみられけりからごろもかへしやりてんそでらして
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ここらでよかろう」二人はどてに坐った。汗くさい文覚のごろもに、女郎花おみなえしの黄いろい穂がしなだれる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、何せよ、五体ままならぬ重蔵、ともすると、鉄壁の構えに一毛の破綻みだれを生じて、無念や、一ヵ所二ヵ所と、虚無僧ごろもを染めてゆく、掠り傷の血痕けっこんが増して見えた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ばかなっ、そんなごろもがいくらのしろになると思うか。——もうよし、くどい問答は切りあげて、また出直そう」もっとねばるかと思いのほか、四郎は手下を連れて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちのしゅたるお人は、女房ごろもをあたまからかずいていたので、たれかは、夜目にもちょっと分らなかったが、しかしすぐあとに起った騒動によって、それが、後醍醐の君であったのは疑いもない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)