さそり)” の例文
畠へ出れば出るで、どこの藪蔭にも石の下にも百足むかでだのさそりだの蛇だのがうじゃうじゃしている。さて畠の向うはといえば山と荒野だ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
大蟻、さそり、土亀の襲撃を避け猿群を追いながら……、よくマヌエラがゆけたと思うほどの、難行五時間後にやっと視野がひらけた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さそりいい虫じゃないよ。ぼく博物館はくぶつかんでアルコールにつけてあるの見た。にこんなかぎがあってそれでされるとぬって先生がってたよ」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それが眼にとまると、これまで押へに押へた仙人の感覺は、さそりのやうに眠りから覺めて、持前の鋭い刺激を囘復した。
久米の仙人 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
殺したのが、その形を想像した丈けでもゾッとする、妖虫さそりの精とも云うべき悪魔なのだ。これが全国の話題となり、全国の恐怖とならない筈はなかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
第四次元の世界の恋は、蛾と蛾の恋のようにさそりと蠍の恋のように、それは命がけの恋で全身的な恋でした。
まむし蝙蝠こうもりさそり蚰蜒げじげじ毒蜘蛛どくぐもなどを研究することを拒み、「実にきたない!」と言いながら、それらを闇のうちに投げ捨てる博物学者を、人は想像し得らるるか。
この頃の子供はすべての野蛮人に共通しているように、げんきょにしてこうゆうなるものであった。いざ喧嘩だとなると身構えが違ってくる。さそりのように少年に飛びついた。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それからアリストテレスの『動物史』、八巻二八章に、カリア等に産するさそりはよく牝豕を殺す。牝豕は他の毒虫にさるるも平気だ。殊に黒い牝豕は蠍に殺されやすい。
さそりの如くさきを固めし有毒うどくまたを卷き上げて尾はこと/″\く虚空に震へり 二五—二七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
まむしさそりに刺されゝば、吾々の生命はあぶないのだ。そして、一番重要な事は、毒がどういふ風に働くか、そして其の害をおさへるのにはどうしなければならないかを完全に知る事なんだ。
東へ曲った時東山の上にさそりの尾が美しく見えた。道は一すじに……(空白)
小さき良心:断片 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
さそりが石の下にもぐり込んで気違いのようになって物をしたがっている時にでも、ラザルスは太陽のひかりを浴びたまま坐って動かず、灌木のような異様な髯の生えている紫色の顔を仰向けて
北斗はいつしか傾き、三ツ山の上に大きくさそり星が伸び上がっている。
長崎の鐘 (新字新仮名) / 永井隆(著)
ああこの噛みついてくるさそりのやうに
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
のけがれ、さそりもなにぞ。——
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
沸き立つや、さそりなすもの
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
だけどいい虫だわ、お父さんこうったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきのさそりがいて小さな虫やなんかころしてたべて生きていたんですって。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
最初は、それが珠子を殺した傷口かと思われたが、よく見ると、血ではなくて、血よりももっと恐ろしい、一匹の真赤な虫であった。赤くいろどられたさそりであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幸福の最中に突然そういう秘密を知ることは、あたかもはとの巣の中にさそりを見いだすがようなものだった。
今度はいよいよ化け物類の出勤時間、草木も眠る真夜中に、彼ら総出で何とも知れぬ大声でさわぎ立て、獅・豹・熊・牛・蝮蛇まむしさそり・狼の諸形を現じて尊者の身が切れ切れになるまでさいなんだが
沸き立つや、さそりなすもの
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。けれども、てん大烏おおがらすの星やさそりの星やうさぎの星ならもちろんすぐ行けます。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
熱帯地方に棲息せいそくするさそりという毒虫は、蜘蛛くもの一種であるけれど、伊勢海老いせえびを小さくした様な醜怪な姿をしていて、どんな大きな相手にも飛び掛って来る、凶悪無残の妖虫である。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなた方が前にあの空のさそりの悪い心を命がけでお直しになった話はここへも伝わって居ります。私はそれをこちらの小学校の読本とくほんにも入れさせました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さそりがやけて死んだのよ。その火がいまでもえてるって、あたし何べんもお父さんからいたわ」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さそりは二人につかまってよろよろ歩き出しました。二人のかたの骨は曲りそうになりました。実に蠍のからだは重いのです。大きさから云っても童子たちの十倍位はあるのです。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)